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〘916㌻〙

第1章

1 ウヅの地ちにヨブと名なづくる人ひとあり 其人そのひとと爲なり完全󠄃まつたくかつ正たゞしくして神かみを畏おそれ惡あくに遠󠄄とほざかる 2 その生うめる者ものは男をとこの子こ七人にん女をんなの子こ三人にん 3 その所󠄃有󠄃物もちものは羊ひつじ七千せん 駱駝らくだ三千ぜん 牛うし五百ひやく軛くびき 牝驢馬めろば五百ひやく 僕しもべも夥多おびただしくあり 此人このひとは東ひがしの人ひとの中うちにて最もつとも大おほいなる者ものなり 4 その子等こらおのおの己おのれの家いへにて己おのれの日ひに宴筵ふるまひを設まうくる事ことを爲なし その三人にんの姉妹しまいをも招まねきて與ともに食󠄃飮くひのみせしむ 5 その宴筵ふるまひの日ひはつる每ごとにヨブかならず彼かれらを召よびよせて潔󠄄きよむ 即すなはち朝󠄃あさはやく興おき彼かれら一切すべての數󠄄かずにしたがひて燔祭はんさいを獻さゝぐ 是これはヨブ我わが子こら罪つみを犯をかし心こゝろを神かみを忘󠄃わすれたらんも知しるべからずと謂いひてなり ヨブの爲なすところ常つねに是かくのごとし

6 或ある日ひ神かみの子こ等たちきたりてヱホバの前󠄃まへに立たつ サタンも來きたりてその中なかにあり 7 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは汝なんぢ何處いづくより來きたりしや サタン、ヱホバに應こたへて言いひけるは地ちを行ゆきめぐり此彼ここかしこ經へあるきて來きたれり 8 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは汝なんぢ心こゝろをもちひてわが僕しもべヨブを觀みしや 彼かれのごとく完全󠄃まつたくかつ正たゞしくして神かみを畏おそれ惡あくに遠󠄄とほざかる人ひと世よにあらざるなり 9 サタン、ヱホバに應こたへて言いひけるはヨブあにもとむることなくして神かみを畏おそれんや 10 汝なんぢ彼かれとその家いへおよびその一切すべての所󠄃有󠄃物もちものの周󠄃圍󠄃まはりに藩屛まがきを設まうけたまふにあらずや 汝なんぢかれが手てに爲なすところを盡こと〴〵く成󠄃就じやうじゆせしむるがゆゑにその所󠄃有󠄃物もちもの地ちに遍󠄃あまねし 11 然されど汝なんぢの手てを伸のべて彼かれの一切すべての所󠄃有󠄃物もちものを擊うちたまへ 然さらば必かならず汝なんぢの面かほにむかひて汝なんぢを詛のろはん 12 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは視みよ彼かれの一切すべての所󠄃有󠄃物もちものを汝なんぢの手てに任まかす 唯たゞかれの身みに汝なんぢの手てをつくる勿なかれ サタンすなはちヱホバの前󠄃まへよりいでゆけり
 916㌻ 

13 或ある日ひヨブの子むすこ女むすめ等らその第だい一の兄あにの家いへにて物もの食󠄃くひ酒さけ飮のみゐたる時とき 14 使󠄃者つかひヨブの許もとに來きたりて言いふ 牛うし耕󠄃たがへしをり牝驢馬めろばその傍かたはらに草食󠄃くさくひをりしに 15 シバ人びと襲󠄂おそひて之これを奪うばひ刃やいばをもて少者わかきものを打うち殺ころせり 我われただ一人ひとりのがれて汝なんぢに吿つげんとて來きたれりと 16 彼かれなほ語ものいひをる中うちに又󠄂また一人ひとりきたりて言いふ 神かみの火ひ天てんより降󠄄くだりて羊ひつじおよび少者わかきものを焚やきて滅ほろぼせり 我われただ一人ひとりのがれて汝なんぢに吿つげんとて來きたれりと 17 彼かれなほ語ものいひをる中うちに又󠄂また一人ひとりきたりて言いふ カルデヤ人びと三隊󠄄みくみに分󠄃わかれ來きて駱駝らくだを襲󠄂おそひてこれを奪うばひ刃やいばをもて少者わかきものを打うち殺ころせり我われただ一人ひとりのがれて汝なんぢに吿つげんとて來きたれりと 18 彼かれなほ語ものいひをる中うちに又󠄂また一人ひとり來きたりて言いふ汝なんぢの子むすこ女むすめ等らその第だい一の兄あにの家いへにて物もの食󠄃くひ酒さけ飮のみをりしに〘708㌻〙 19 荒野あれのの方かたより大風おほかぜふき來きて家いへの四隅よすみを擊うちければ夫かの若わかき人々ひと〴〵の上うへに潰つぶれおちて皆みなしねり 我われこれを汝なんぢに吿つげんとて只たゞ一人ひとりのがれ來きたれりと

20 是こゝにおいてヨブ起󠄃たちあがり外衣うはぎを裂さき髮かみを斬きり地ちに伏ふしして拜はいし 21 言いふ我われ裸はだかにて母はゝの胎たいを出いでたり 又󠄂また裸はだかにて彼處かしこに歸かへらん ヱホバ與あたへヱホバ取とりたまふなり ヱホバの御名みなは讃ほむべきかな 22 この事ことにおいてヨブは全󠄃まつたく罪つみを犯をかさず神かみにむかひて愚おろかなることを言いはざりき

第2章

1 或ある日ひ神かみの子等こたちきたりてヱホバの前󠄃まへに立たつ サタンも來きたりその中なかにありてヱホバの前󠄃まへに立たつ 2 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは汝なんぢ何處いづくより來きたりしや サタン、ヱホバに應こたへて言いひけるは地ちを行ゆきめぐり此彼ここかしこ經へあるきて來きたれり 3 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは汝なんぢ心こゝろをもちひて我わが僕しもべヨブを見みしや 彼かれのごとく完全󠄃まつたくかつ正たゞしくして神かみを畏おそれ惡あくに遠󠄄とほざかる人ひと世よにあらざるなり 汝なんぢわれを勸󠄂すゝめて故ゆゑなきに彼かれを打惱うちなやまさしめしかど彼かれなほ己おのれを完まつたうして自みづから堅かたくす 4 サタン、ヱホバに應こたへて言いひけるは皮かはをもて皮かはに換かふるなれば人ひとはその一切すべての所󠄃有󠄃物もちものをもて己おのれの生命いのちに換かふべし 5 然されど今いまなんぢの手てを伸のべて彼かれの骨ほねと肉󠄁にくとを擊うちたまへ 然さらば必かならず汝なんぢの面かほにむかひて汝なんぢを詛のろはん
 917㌻ 
6 ヱホバ、サタンに言いひたまひけるは彼かれを汝なんぢの手てに任まかす 只たゞかれの生命いのちを害󠄅そこなふ勿なかれと

7 サタンやがてヱホバの前󠄃まへよりいでゆきヨブを擊うちてその足あしの跖うらより頂いたゞきまでに惡あしき腫物はれものを生しやうぜしむ 8 ヨブ土瓦やきものの碎片くだけを取とり其そのをもて身みを掻かき灰󠄃はひの中なかに坐すわりぬ 9 時ときにその妻つまかれに言いひけるは汝なんぢは尙なほも己おのれを完まつたうして自みづから堅かたくするや 神かみを詛のろひて死しぬるに如しかずと 10 然しかるに彼かれはこれに言いふ汝なんぢの言いふところは愚おろかなる婦󠄃をんなの言いふところに似にたり 我われら神かみより福祉さいはひを受うくるなれば災禍わざはひをも亦また受うけざるを得えんやと 此事このことにおいてはヨブまつたくその唇くちびるをもて罪つみを犯をかさざりき

11 時ときにヨブの三人にんの友ともこの一切すべての災禍わざはひの彼かれに臨のぞめるを聞きき各々おの〳〵おのれの處ところよりして來きたれり 即すなはちテマン人びとエリパズ、シユヒ人びとビルダデおよびマアナ人びとゾパル是これなり 彼かれらヨブを弔いたはりかつ慰なぐさめんとて互たがひに約やくしてきたりしが 12 目めを擧あげて遙はるかに觀みしに其そのヨブなるを見識みしりがたき程󠄃ほどなりければ齊ひとしく聲こゑを擧あげて泣なき 各おの〳〵おのれの外衣うはぎを裂さき天てんにむかひて塵ちりを撒まきて己おのれの頭かしらの上うへにちらし 13 乃すなはち七日なぬか七夜ななよかれと偕ともに地ちに坐ざしゐて 一言ひとことも彼かれに言いひかくる者ものなかりき 彼かれが苦惱くるしみの甚はなはだ大おほいなるを見みたればなり〘709㌻〙

第3章

1 斯かくて後のちヨブ口くちを啓󠄃ひらきて自己おのれの日ひを詛のろへり 2 ヨブすなはち言詞ことばを出いだして云いはく 3 我わが生うまれし日ひ亡ほろびうせよ 男子をのこ胎はらにやどれりと言いひし夜よも亦また然しかあれ 4 その日ひは暗󠄃くらくなれ 神かみ上うへよりこれを顧󠄃かへりみたまはざれ 光ひかりこれを照てらす勿なかれ 5 黑暗󠄃くらやみおよび死蔭しのかげこれを取とりもどせ 雲くもこれが上うへをおほえ 日ひを暗󠄃くらくする者ものこれを懼おそれしめよ 6 その夜よは黑暗󠄃くらやみの執とらふる所󠄃ところとなれ 年としの日ひの中うちに加くははらざれ 月󠄃つきの數󠄄かずに入いらざれ 7 その夜よは孕はらむこと有󠄃あらざれ 歡喜よろこびの聲こゑその中うちに興おこらざれ 8 日ひを詛のろふ者ものレビヤタンを激發ふりおこすに巧たくみなる者ものこれを詛のろへ 9 その夜よの晨星あけのほしは暗󠄃くらかれ その夜よには光明ひかりを望󠄇のぞむも得えざらしめ 又󠄂また東雲しののめの眼蓋まぶたを見みざらしめよ 10 是こは我わが母はゝの胎はらの戶とを闔とぢずまた我わが目めに憂うれへを見みること無なからしめざりしによる 11 何なにとて我われは胎はらより死しにて出いでざりしや 何なにとて胎はらより出いでし時ときに氣息いきたえざりしや
 918㌻ 
12 如何いかなれば膝ひざありてわれを接うけしや 如何いかなれば乳󠄃房󠄃ちぶさありてわれを養󠄄やしなひしや 13 否しからずば今いまは我われ偃󠄂ふして安やすんじかつ眠ねむらん 然さらばこの身みやすらひをり 14 かの荒墟あれつかを自己おのれのために築きづきたりし世よの君きみ等たち臣おみ等たちと偕ともにあり 15 かの黃金こがねを有󠄃もち白銀しろがねを家いへに充みたしたりし牧伯つかさ等たちと偕ともにあらん 16 又󠄂また人ひとしれず墮おりる胎兒はらごのごとくにして世よに出いでず また光ひかりを見みざる赤子あかごのごとくならん 17 彼處かしこにては惡あしき者もの 虐󠄃遇󠄃しへたげを息やめ倦憊󠄂うみつかれたる者もの安息やすみを得う 18 彼處かしこにては俘囚人とらはれびとみな共ともに安然やすらかに居をりて驅使󠄃者おひつかふものの聲こゑを聞きかず 19 小ちひさき者ものも大おほいなる者ものも同おなじく彼處かしこにあり僕しもべも主ぬしの手てを離はなる 20 如何いかなれば艱難なやみにをる者ものに光ひかりを賜たまひ 心こゝろ苦くるしむ者ものに生命いのちをたまひしや 21 斯かゝる者ものは死しを望󠄇のぞむなれどもきたらず これをもとむるは藏かくれたる寳たからを掘ほるよりも甚はなはだし 22 もし墳墓はかを尋󠄃たづねて獲えば大おほいに喜よろこび樂たのしむなり 23 その道󠄃みちかくれ神かみに取籠とりこめられをる人ひとに如何いかなれば光明ひかりを賜たまふや 24 わが歎息なげきはわが食󠄃物くひものに代かはり我わが呻吟うめきは水みづの流ながれそそぐに似にたり 25 我わが戰慄をののき懼おそれし者もの我われに臨のぞみ我わが怖懼おぢおそれたる者ものこの身みに及およべり 26 我われは安然やすらかならず穩おだやかならず安息やすみを得えず唯たゞ艱難なやみのみきたる

第4章

1 時ときにテマン人びとエリパズ答こたへて曰いはく 2 人ひともし汝なんぢにむかひて言詞ことばを出いださば汝なんぢこれを厭いとふや 然さりながら誰たれか言いはで忍󠄄しのぶことを得えんや 3 さきに汝なんぢは衆多おほくの人ひとを誨をしへ諭󠄄さとせり 手ての埀たれたる者ものをばこれを强つよくし 4 つまづく者ものをば言ことばをもて扶たすけおこし 膝ひざの弱󠄃よわりたる者ものを强つよくせり〘710㌻〙 5 然しかるに今いまこの事こと汝なんぢに臨のぞめば汝なんぢ悶もだえ この事ことなんぢに加くははれば汝なんぢおぢまどふ 6 汝なんぢは神かみを畏かしこめり 是これなんぢの依賴よりたのむ所󠄃ところならずや 汝なんぢはその道󠄃みちを全󠄃まつたうせり 是これなんぢの望󠄇のぞみならずや 7 請󠄃こふ想おもひ見みよ 誰たれか罪つみなくして亡ほろびし者ものあらん 義ただしき者ものの絕たゝれし事こといづくに在ありや 8 我われの觀みる所󠄃ところによれば不義ふぎを耕󠄃たがへし惡あくを播まく者ものはその穫かる所󠄃ところも亦また是かくのごとし 9 みな神かみの氣吹いぶきによりて滅ほろびその鼻はなの息いきによりて消󠄃きえうす
 919㌻ 
10 獅子しゝの吼ほえ 猛たけき獅子しゝの聲こゑともに息やみ 少わかき獅子しゝの牙󠄂きば折をれ 11 大おほ獅子じし獲え物ものなくして亡ほろび小獅子こじし散失ちりうす 12 前󠄃さきに言ことばの密ひそかに我われに臨のぞめるありて我われその細聲ささやきを耳みゝに聞きゝ得えたり 13 即すなはち人ひとの熟睡うまいする頃ころ我われ夜よの異象まぼろしによりて想おもひ煩わづらひをりける時とき 14 身みに恐懼おそれをもよほして戰慄をののき 骨節󠄄ほねぶしことごとく振ふるふ 15 時ときに靈れいありて我わが面かほの前󠄃まへを過󠄃すぎければ我われは身みの毛けよだちたり 16 その物もの立たちとまりしが我われはその狀さまを見みわかつことえざりき 唯たゞ一ひとつの物ものの象かたちわが目めの前󠄃まへにあり 時ときに我われしづかなる聲こゑを聞きけり云いはく 17 人ひといかで神かみより正義ただしからんや 人ひといかでその造󠄃主つくりぬしより潔󠄄きよからんや 18 彼かれはその僕しもべをさへに恃たのみたまはず 其その使󠄃者つかひをも足たらぬ者ものと見做みなしたまふ 19 况いはんや土つちの家いへに住󠄃すみをりて塵ちりを基もとゐとし蜉蝣かげらふのごとく亡ほろぶる者ものをや 20 是これは朝󠄃あさより夕ゆふまでの間あひだに亡ほろびかへりみる者ものもなくして永ながく失逝󠄃うせさる 21 その魂たまの緒をあに絕たえざらんや皆みな悟さとること無なくして死しにうす

第5章

1 請󠄃こふなんぢ龥よびて看みよ 誰たれか汝なんぢに應こたふる者ものありや 聖󠄃者きよきものの中うちにて誰たれに汝なんぢむかはんとするや 2 夫それ愚おろかなる者ものは憤恨いきどほりのために身みを殺ころし 癡つたなき者ものは嫉媢󠄂ねたみのために己おのれを死しなしむ 3 我われみづから愚おろかなる者もののその根ねを張はるを見みたりしがすみやかにその家いへを詛のろへり 4 その子等こどもは助援󠄃たすけを獲うることなく 門もんにて惱なやまさる 之これを救すくふ者ものなし 5 その穡かりとれる物ものは饑󠄃うゑたる人ひとこれを食󠄃くらひ 荊棘いばらの籬󠄂まがきの中うちにありてもなほ之これを奪うばひいだし 羂わなをその所󠄃有󠄃物もちものにむかひて口くちを張はる 6 災禍わざはひは塵ちりより起󠄃おこらず 艱難なやみは土つちより出いでず 7 人ひとの生うまれて艱難なやみをうくるは火ひの子この上かみに飛とぶがごとし 8 もし我われならんには我われは必かならず神かみに吿つげ求もとめ 我わが事ことを神かみに任まかせん 9 神かみは大おほいにして測はかりがたき事ことを行おこなひたまふ 其その不思議ふしぎなる事わざを爲なしたまふこと數󠄄かずしれず 10 雨あめを地ちの上うへに降󠄄ふらし 水みづを野のに遣󠄃おくり 11 卑ひくき者ものを高たかく擧あげ 憂うれふる者ものを引ひき興おこして幸福さいはひならしめたまふ 12 神かみは狡さかしき者ものの謀計はかりごとを敗やぶり 之これをして何事なにごとをもその手てに成󠄃就なしとぐること能あたはざらしめ
 920㌻ 
13 慧󠄄かしこき者ものをその自分󠄃みづからの詭計たくみによりて執とらへ 邪󠄅よこしまなる者ものの謀計はかりごとをして敗やぶれしむ〘711㌻〙 14 彼かれらは晝ひるも暗󠄃黑くらきに遇󠄃あひ 卓午まひるにも夜よるの如ごとくに摸さぐり惑まどはん 15 神かみは惱なやめる者ものを救すくひてかれらが口くちの劍つるぎを免まぬかれしめ 强つよき者ものの手てを免まぬかれしめたまふ 16 是こゝをもて弱󠄃よわき者もの望󠄇のぞみあり 惡あしき者もの口くちを閉とづ 17 神かみの懲こらしたまふ人ひとは幸福さいはひなり 然されば汝なんぢ全󠄃能者ぜんのうしやの儆責いましめを輕かろんずる勿なかれ 18 神かみは傷きづつけ又󠄂また裹つゝみ 擊うちていため又󠄂またその手てをもて善ぜん醫いやしたまふ 19 彼かれはなんぢを六むつの艱難なやみの中うちにて救すくひたまふ 七ななつの中うちにても災禍わざはひなんぢにのぞまじ 20 饑󠄃饉ききんの時ときにはなんぢを救すくひて死しを免まぬかれしめ 戰爭いくさの時ときには劍つるぎの手てを免まぬかれしめたまふ 21 汝なんぢは舌したにて鞭むちうたるる時ときにも隱かくるることを得え 壞滅ほろびの來きたる時ときにも懼おそるること有󠄃あらじ 22 汝なんぢは壞滅ほろびと饑󠄃饉ききんを笑わらひ地ちの獸けものをも懼おそるること無なかるべし 23 田野でんやの石いしなんぢと相あひ結むすび野のの獸けものなんぢと和やはらがん 24 汝なんぢはおのが幕屋まくやの安然やすらかなるを知しらん 汝なんぢの住󠄃處すみかを見みまはるに缺かけたる者ものなからん 25 汝なんぢまた汝なんぢの子等こどもの多おほくなり 汝なんぢの裔すゑの地ちの草くさの如ごとくになるを知しらん 26 汝なんぢは遐齡よきよはひにおよびて墓はかにいらん 宛然あたかも麥束むぎたばを時ときにいたりて運󠄃はこびあぐるごとくなるべし 27 視みよ我われらが尋󠄃たづね明あきらめし所󠄃ところかくのごとし 汝なんぢこれを聽きゝて自みづから知しれよ

第6章

1 ヨブ應こたへて曰いはく 2 願ねがはくは我わが憤恨いきどほりの善よく權はかられ 我わが懊惱なやみの之これとむかひて天秤はかりに懸かけられんことを 3 然さすれば是これは海うみの沙すなよりも重おもからん 斯かゝればこそ我わが言ことば躁妄みだりなりけれ 4 それ全󠄃能者ぜんのうしやの箭󠄃やわが身みにいりわが魂神たましひその毒󠄂どくを飮のめり 神かみの畏怖おそれ我われを襲󠄂おそひ攻せむ 5 野驢馬のろばあに靑草あをくさあるに鳴なかんや 牛うしあに食󠄃物くひものあるに吽うならんや 6 淡あはき物ものあに鹽しほなくして食󠄃くらはれんや 蛋たまごの白しろみあに味あじはひあらんや 7 わが心こゝろの觸ふるることを嫌󠄃きらふ物もの是これは我わが厭いとふ所󠄃ところの食󠄃物くひもののごとし 8 願ねがはくは我わが求もとむる所󠄃ところを得えんことを願ねがはくは神かみわが希こひねがふ所󠄃ところの物ものを我われに賜たまはらんことを 9 願ねがはくは神かみわれを滅ほろぼすを善よしとし 御手みてを伸のべて我われを絕たちたまはんことを
 921㌻ 
10 然しかるとも我われは尙なほみづから慰なぐさむる所󠄃ところあり 烈はげしき苦痛くるしみの中なかにありて喜よろこばん 是こは我われ聖󠄃者きよきものの言ことばに悖もとりしことなければなり 11 我われ何なにの氣力ちからありてか尙なほ俟またん 我われの終󠄃をはりいかなれば我われなほ耐こらへ忍󠄄しのばんや 12 わが氣力ちからあに石いしの氣力ちからのごとくならんや 我わが肉󠄁にくあに銅あかがねのごとくならんや 13 わが助たすけわれの中うちに無なきにあらずや 救拯すくひ我われより逐󠄃おひはなされしにあらずや 14 憂患うれひにしづむ者ものはその友ともこれを憐あはれむべし 然しからずば全󠄃能者ぜんのうしやを畏おそるることを廢やめん 15 わが兄弟きやうだいはわが望󠄇のぞみを充みたさざること溪川たにがはのごとく 溪川たにがはの流ながれのごとくに過󠄃すぎさる 16 是これは氷こほりのために黑くろくなり 雪󠄃ゆきその中うちに藏かくるれども 17 溫暖󠄃あたたかになる時ときは消󠄃きえゆき熱あつくなるに及およびてはその處ところに絕たえはつ〘712㌻〙 18 隊󠄄旅󠄃客くみたびびと身みをめぐらして去さり空󠄃曠處むなしきところにいたりて亡ほろぶ 19 テマの隊󠄄旅󠄃客くみたびびとこれを望󠄇のぞみシバの旅󠄃客たびゞとこれを慕したふ 20 彼等かれらこれを望󠄇のぞみしによりて愧恥はぢを取とり 彼處かしこに至いたりてその面かほを赧あかくす 21 かく汝等なんぢらも今いまは虛むなしき者ものなり 汝なんぢらは怖おそろしき事ことを見みれば則すなはち懼おそる 22 我われあに汝等なんぢら我われに予あたへよと言いひしこと有󠄃あらんや 汝なんぢらの所󠄃有󠄃物もちものの中うちより物ものを取とりて我わがために饋おくれと言いひしこと有󠄃あらんや 23 また敵人あだびとの手てより我われを救すくひ出いだせと言いひしことあらんや 虐󠄃しへたぐる者ものの手てより我われを贖あがなへと言いひしことあらんや 24 我われを敎をしへよ 然しからば我われ默もくせん 請󠄃こふ我われの過󠄃あやまてる所󠄃ところを知しらせよ 25 正たゞしき言ことばは如何いかに力ちからあるものぞ 然さりながら汝なんぢらの規諫いましむる所󠄃ところは何なにの規諫いましめとならんや 26 汝なんぢらは言ことばを規正いましめんと想おもふや 望󠄇のぞみの絕たえたる者ものの語かたる所󠄃ところは風かぜのごときなり 27 汝なんぢらは孤子みなしごのために籤くじを掣ひき 汝なんぢらの友ともをも商貨あきなひものにするならん 28 今いまねがはくは我われに向むかへ 我われは汝なんぢらの面かほの前󠄃まへに僞いつはらず 29 請󠄃こふ再ふたゝびせよ 不義ふぎあらしむる勿なかれ 請󠄃こふ再ふたゝびせよ 此事このことにおいては我われ正義たゞし 30 我わが舌したに不義ふぎあらんや 我わが口くち惡あしき物ものを辨わきまへざらんや

第7章

1 それ人ひとの世よにあるは戰鬪たたかひにあるがごとくならずや 又󠄂また其その日ひは傭人やとひびとの日ひのごとくなるにあらずや
 922㌻ 
2 奴僕しもべの暮くれを冀こひねがふが如ごとく傭人やとひびとのその價あたひを望󠄇のぞむがごとく 3 我われは苦くるしき月󠄃つきを得えさせられ 憂うれはしき夜よをあたへらる 4 我われ臥ふせば乃すなはち言いふ何時いつ夜よあけて我われおきいでんかと 曙󠄃あけぼのまで頻しきりに輾轉まろぶ 5 わが肉󠄁にくは蟲むしと土塊つちくれとを衣服󠄃ころもとなし 我わが皮かはは愈󠄃いえてまた腐くさる 6 わが日ひは機はたの梭ひよりも迅󠄄速󠄃すみやかなり 我われ望󠄇のぞむ所󠄃ところなくし之これを送󠄃おくる 7 想おもひ見みよ わが生命いのちが氣息いきなる而已のみ 我わが目めは再ふたゝび福祉さいはひを見みること有󠄃あらじ 8 我われを見みし者ものの眼まなこかさねて我われを見みざらん 汝なんぢ目めを我われにむくるも我われは已すでに在あらざるべし 9 雲くもの消󠄃きえて逝󠄃さるがごとく陰府よみに下くだれる者ものは重かさねて上のぼりきたらじ 10 彼かれは再ふたゝびその家いへに歸かへらず 彼かれの郷里ふるさとも最早もはやかれを認󠄃みとめじ 11 然されば我われはわが口くちを禁とどめず 我わが心こゝろの痛いたみによりて語ものいひ わが神魂たましひの苦くるしきによりて歎なげかん 12 我われあに海うみならんや鱷わにならんや 汝なんぢなにとて我われを守まもらせおきたまふぞ 13 わが牀とこわれを慰なぐさめ わが寢床ねどこわが愁うれへを解とかんと思おもひをる時ときに 14 汝なんぢ夢ゆめをもて我われを驚おどろかし 異象まぼろしをもて我われを懼おそれしめたまふ 15 是こゝをもて我わが心こゝろは氣息いきの閉とぢんことを願ねがひ我わがこの骨ほねよりも死しを冀こひねがふ 16 われ生命いのちを厭いとふ 我われは永ながく生いくることを願ねがはず 我われを捨󠄃すておきたまへ 我わが日ひは氣いきのごときなり〘713㌻〙 17 人ひとを如何いかなる者ものとして汝なんぢこれを大おほいにし 之これを心こゝろに留とめ 18 朝󠄃あさごとに之これを看みそなはし 時ときわかず之これを試こゝろみたまふや 19 何時いつまで汝なんぢわれに目めを離はなさず 我わが津つを咽のむ間まも我われを捨󠄃すておきたまはざるや 20 人ひとを鑒かんがみたまふ者ものよ我われ罪つみを犯をかしたりとて汝なんぢに何なにをか爲なさん 何なんぞ我われを汝なんぢの的まととなして我われにこの身みを厭いとはしめたまふや 21 汝なんぢなんぞ我われの愆とがを赦ゆるさず我わが罪つみを除のぞきたまはざるや 我われいま土つちの中なかに睡ねむらん 汝なんぢ我われを尋󠄃たづねたまふとも我われは在あらざるべし

第8章

1 時ときにシユヒ人びとビルダデ答こたへて曰いはく 2 何時いつまで汝なんぢかかる事ことを言いふや 何時いつまで汝なんぢの口くちの言語ことばを大風おほかぜのごとくにするや 3 神かみあに審判󠄄さばきを曲まげたまはんや 全󠄃能者ぜんのうしやあに公󠄃義こうぎを曲まげたまはんや 4 汝なんぢの子等こどもかれに罪つみを獲えたるにや之これをその愆とがの手てに付わたしたまへり
 923㌻ 
5 汝なんぢもし神かみに求もとめ 全󠄃能者ぜんのうしやに祈いのり 6 淸きよくかつ正たゞしうしてあらば必かならず今いま汝なんぢを顧󠄃かへりみ汝なんぢの義ただしき家いへを榮さかえしめたまはん 7 然しからば汝なんぢの始はじめは微小ちひさくあるとも汝なんぢの終󠄃をはりは甚はなはだ大おほいならん 8 請󠄃こふ汝なんぢ過󠄃すぎにし代よの人ひとに問とへ 彼かれらの父󠄃祖ふその尋󠄃究たづねきはめしところの事ことを學まなべ 9 (我われらは昨日きのふより有󠄃ありしのみにて何なにをも知しらず 我われらが世よにある日ひは影かげのごとし) 10 彼等かれらなんぢを敎をしへ汝なんぢを諭󠄄さとし 言ことばをその心こゝろより出いださざらんや 11 葦あしあに泥どろなくして長のびんや 荻をぎあに水みづなくしてそだたんや 12 是これはその靑あをくして未いまだ刈からざる時ときにも他ほかの一切すべての草くさよりは早はやく槁かる 13 神かみを忘󠄃わするる者ものの道󠄃みちは凡すべて是かくのごとく 悖もとる者ものの望󠄇のぞみは空󠄃むなしくなる 14 その恃たのむ所󠄃ところは絕たゝれ その倚よるところは蜘蛛網󠄄くものすのごとし 15 その家いへに倚よりかからんとすれば家いへ立たゝず 之これに堅かたくとりすがるも保たもたじ 16 彼かれ日ひの前󠄃まへに靑緑みどりを呈󠄄あらはし その枝えだを園そのに蔓延󠄅はびこらせ 17 その根ねを石堆いしづかに盤からみて石いしの屋いへを眺ながむれども 18 若もしその處ところより取とりのぞかれなばその處ところこれを認󠄃みとめずして我われは汝なんぢを見みたる事ことなしと言いはん 19 視みよその道󠄃みちの喜樂たのしみ是かくのごとし 而しかしてまた他ほかの者もの地ちより生はえいでん 20 それ神かみは完全󠄃まつたき人ひとを棄すてたまはず また惡あしき者ものの手てを執とりたまはず 21 遂󠄅つひに哂笑わらひをもて汝なんぢの口くちに充みたし歡喜よろこびを汝なんぢの唇くちびるに置おきたまはん 22 汝なんぢを惡にくむ者ものは羞恥はぢを着きせられ 惡あしき者ものの住󠄃所󠄃すみかは無なくなるべし

第9章

1 ヨブこたへて言いひけるは 2 我われまことに其その事ことの然しかるを知しれり 人ひといかでか神かみの前󠄃まへに義ただしかるべけん 3 よし人ひとは神かみと辨爭あらそはんとするとも千せんの一ひとつも答こたふること能あたはざるべし 4 神かみは心こゝろ慧󠄄かしこく力ちから强つよくましますなり 誰たれか神かみに逆󠄃さからひてその身み安やすからんや〘714㌻〙 5 彼かれ山やまを移うつしたまふに山やましらず 彼かれ震怒いかりをもて之これを飜倒くつがへしたまふ 6 彼かれ地ちを震ふるひてその所󠄃ところを離はなれしめたまへばその柱󠄃はしらゆるぐ 7 日ひに命めいじたまへば日ひいでず 又󠄂また星辰ほしを封ふうじたまふ 8 唯たゞかれ獨ひとり天てんを張はり海うみの濤なみを覆󠄄ふみたまふ
 924㌻ 
9 また北斗ほくと參宿しんしゆく昴宿ばうしゆくおよび南方なんぽうの密室みつしつを造󠄃つくりたまふ 10 大おほいなる事ことを行おこなひたまふこと測はかられず奇くすしき業わざを爲なしたまふこと數󠄄かずしれず 11 視みよ彼かれわが前󠄃まへを過󠄃すぎたまふ 然しかるに我われこれを見みず彼かれすすみゆき賜たまふ然しかるに我われ之これを曉さとらず 12 彼かれ奪うばひ去さり賜たまふ 誰たれか能あた之これを沮はばまん 誰たれか之これに汝なんぢ何なにを爲なすやと言いふことを得え爲せん 13 神かみ其その震怒いかりを息やめ賜たまはず ラハブを助たすくる者もの等ども之これが下したに屈かがむ 14 然されば我われ爭いかでか彼かれに回答こたへを爲なすことを得えん 爭いかでわれ言ことばを選󠄄えらびて彼かれと論あげつらふ事ことをえんや 15 假令たとひわれ義ただしかるとも彼かれに回答こたへをせじ 彼かれは我われを審判󠄄さばく者ものなれば我われ彼かれに哀なげき求もとめん 16 假令たとへ我われ彼かれを呼よびて彼かれわれに答こたへたまふともわが言ことばを聽きゝいれ賜たまひしとは我われ信しんぜざるなり 17 彼かれは大風おほかぜをもて我われを擊碎うちくだき 故ゆゑなくして我われに衆多おほくの傷きずを負󠄅おはせ 18 我われに息いきをつかさしめず 苦にがき事ことをもて我わが身みに充みたせ賜たまふ 19 强つよき者ものの力量ちからを言いはんか 視みよ此こゝにあり 審判󠄄さばきの事ことならんか 誰たれか我われを喚よび出いだすことを得え爲せん 20 假令たとひわれ義ただしかるとも我わが口くちわれを惡あししと爲なさん 假令たとひわれ完全󠄃まつたかるとも尙なほわれを罪つみありとせん 21 我われは全󠄃まつたし 然しかれども我われはわが心こゝろを知しらず 我わが生命いのちを賤いやしむ 22 皆みな同一ひとつなり 故ゆゑに我われは言いふ神かみは完全󠄃まつたき者ものと惡あしき者ものとを等らしく滅ほろぼしたまふと 23 災禍わざはひの俄然にはかに人ひとを誅ころす如ごとき事ことあれば彼かれは辜つみなき者ものの苦痛くるしみを笑わらひ見みたまふ 24 世よは惡あしき者ものの手てに交󠄄わたされてあり 彼かれまたその裁判󠄄さばき人びとの面かほを蔽おほひたまふ 若もし彼かれならずば是これ誰たれの行爲わざなるや 25 わが日ひは驛使󠄃はゆまづかひよりも迅󠄄はやく 徒たゞに過󠄃すぎさりて福祉さいはひを見みず 26 其そはしること葦舟あしぶねのごとく 物ものを攫つかまんとて飛とびかける鷲わしのごとし 27 たとひ我われわが愁うれひを忘󠄃わすれ面色かほいろを改あらためて笑わらひをらんと思おもふとも 28 尙なほこの諸もろ〳〵の苦痛くつうのために戰慄ふるひをののくなり 我われ思おもふに汝なんぢわれを釋ゆるし放はなちたまはざらん 29 我われは罪つみありとせらるるなれば何なんぞ徒然いたづらに勞らうすべけんや 30 われ雪󠄃ゆき水みづをもて身みを洗あらひ 灰󠄃汁あくをもて手てを潔󠄄きよむるとも 31 汝なんぢわれを汚けがらはしき穴󠄄あなの中なかに陷おとしいれたまはん 而しかして我わが衣ころもも我われを厭いとふにいたらん 32 神かみは我われのごとく人ひとにあらざれば我われかれに答こたふべからず 我われら二箇ふたりして共ともに裁判󠄄さばきに臨のぞむべからず
 925㌻ 
33 また我われらの間あひだには我われら二箇ふたりの上うへに手てを置おくべき仲保ちうほうあらず 34 願ねがはくは彼かれその杖つゑを我われより取とりはなし その震怒いかりをもて我われを懼おそれしめたまはざれ 35 然しからば我われ 言語ものいひて彼かれを畏おそれざらん 其そは我われみづから斯かゝる者ものと思おもはざればなり〘715㌻〙

第10章

1 わが心こゝろ生命いのちを厭いとふ 然されば我われわが憂愁うれへを包󠄃つゝまず言いひあらはし わが魂神たましひの苦くるしきによりて語ものいはん 2 われ神かみに申まうさん 我われを罪つみありしとしたまふ勿なかれ 何故なにゆゑに我われとあらそふかを我われに示しめしたまへ 3 なんぢ虐󠄃遇󠄃しへたげを爲なし 汝なんぢの手ての作わざを打うち棄すてて惡あしき者ものの謀計はかりごとを照てらすことを善よしとしたまふや 4 汝なんぢは肉󠄁眼にくがんを有󠄃もちたまふや 汝なんぢの觀みたまふ所󠄃ところは人ひとの觀みるがごとくなるや 5 なんぢの日ひは人間にんげんの日ひのごとく 汝なんぢの年としは人ひとの日ひのごとくなるや 6 何なにとて汝なんぢわが愆とがを尋󠄃たづねわが罪つみをしらべたまふや 7 されども汝なんぢはすでに我われの罪つみなきを知しりたまふ また汝なんぢの手てより救すくひいだし得うる者ものなし 8 汝なんぢの手てわれをいとなみ我われをことごとく作つくれり 然しかるに汝なんぢ今いまわれを滅ほろぼしたまふなり 9 請󠄃こふ記念おぼえたまへ 汝なんぢは土塊つちくれをもてすてるがごとくに我われを作つくりたまへり 然しかるに復またわれを塵ちりに歸かへさんとしたまふや 10 汝なんぢは我われを乳󠄃ちゝのごとく斟そゝぎ牛酪󠄂ぎうらくのごとくに凝こらしめたまひしに非あらずや 11 汝なんぢは皮かはと肉󠄁にくとを我われに着きせ骨ほねと筋すぢとをもて我われを編󠄃あみ 12 生命いのちと恩惠めぐみとをわれに授さづけ我われを眷顧󠄃かへりみてわが魂神たましひを守まもりたまへり 13 然しかはあれど汝なんぢこれらの事ことを御み心こゝろに藏かくしおきたまへり 我われこの事こと汝なんぢの心こゝろにあるを知しる 14 我われもし罪つみを犯をかさば汝なんぢわれをみとめてわが罪つみを赦ゆるしたまはじ 15 我われもし行狀おこなひあしからば禍わざはひあらん 假令たとひわれ義ただしかるとも我われ頭かうべを擧あげじ 其そは我われは衷うちに羞耻はぢ充みち 眼めにわが患難なやみを見みればなり 16 もし頭かうべを擧あげなば獅子しゝのごとくに汝なんぢわれを追󠄃おひ打うち 我わが身みの上うへに復またなんぢの奇くすしき能力ちからをあらはしたまはん 17 汝なんぢはしばしば證あかしする者ものを入いれかへて我われを攻せめ 我われにむかひて汝なんぢの震怒いかりを增まし新手あらてに新手あらてを加くはへて我われを攻せめたまふ 18 何なにとて汝なんぢわれを胎はらより出いだしたまひしや 然しからずば我われは息いき絕たえ目めに見みらるること無なく 19 曾かつて有󠄃あらざりし如ごとくならん 即すなはち我われは胎はらより墓はかに持もちゆかれん
 926㌻ 
20 わが日ひは幾時いくばくも无なきに非あらずや 願ねがはくは彼かれ姑しばらく息やめて我われを離はなれ我われをして少すこしく安やすんぜしめんことを 21 我わが往󠄃ゆきて復また返󠄄かへることなきその先さきだに斯かくあらしめよ 我われは暗󠄃くらき地ち死しの蔭かげの地ちに往󠄃ゆかん 22 この地ちは暗󠄃くらくして晦冥やみに等ひとしく死しの蔭かげにして區分󠄃わいだめなし 彼處かしこにては光明ひかりも黑暗󠄃くらやみのごとし

第11章

1 是こゝにおいてナアマ人びとゾパル答こたへて言いひけるは 2 言語ことば多おほからば豈あに答こたへざるを得えんや 口くちおほき人ひとあに義ただしとせられんや 3 汝なんぢも空󠄃むなしき言ことばあに人ひとをして口くちを閉とぢしめんや 汝なんぢ嘲󠄂あざけらば人ひとなんぢをして羞はぢしめざらんや 4 汝なんぢは言いふ 我わが敎をしへは正たゞし 我われは汝なんぢの目めの前󠄃まへに潔󠄄きよしと 5 願ねがはくは神かみ言ことばを出いだし 汝なんぢにむかひて口くちを開ひらき〘716㌻〙 6 智慧󠄄ちゑの秘密ひみつをなんぢに示しめしてその知識ちしきの相あひ倍ばいするを顯あらはしたまはんことを 汝なんぢしれ神かみはなんぢの罪つみよりも輕かろくなんぢを處置しよちしたまふなり 7 なんぢ神かみの深事ふかきことを窮󠄃きはむるを得えんや 全󠄃能者ぜんのうしやを全󠄃まつたく窮󠄃きはむることを得えんや 8 その高たかきことは天てんのごとし 汝なんぢなにを爲なし得えんや 其その深ふかきことは陰府よみのごとし 汝なんぢなにを知しりえんや 9 その量りやうは地ちよりも長ながく海うみよりも濶ひろし 10 彼かれもし行ゆきめぐりて人ひとを執とらへて召集めしあつめたまふ時ときは誰たれか能よくこれを阻はばまんや 11 彼かれは僞いつはる人ひとを善よく知しりたまふ 又󠄂また惡事あくじは顧󠄃かへりみること無なくして見み知しりたまふなり 12 虛むなしき人ひとは悟性さとりなし その生うまるるよりして野驢馬のろばの駒こまのごとし 13 汝なんぢもし彼かれにむかひて汝なんぢの心こゝろを定さだめ 汝なんぢの手てを舒のべ 14 手てに罪つみのあらんには之これを遠󠄄とほく去され 惡あくをなんぢの幕屋まくやに留とどむる勿なかれ 15 然さすれば汝なんぢ 面かほを擧あげて玷きずなかるべく堅かたく 立たて懼おそるる事ことなかるべし 16 すなはち汝なんぢ憂愁うれひを忘󠄃わすれん 汝なんぢのこれを憶おもゆることは流ながれ去さりし水みづのごとくならん 17 なんぢの生存いきながらふる日ひは眞󠄃晝まひるよりも輝かがやかん 假令たとひ暗󠄃くらき事ことあるとも是これは平󠄃旦あしたのごとくならん 18 なんぢは望󠄇のぞみあるに因よりて安やすんじ 汝なんぢの周󠄃圍󠄃まはりを見みめぐりて安然やすらかに寐いぬるにいたらん
 927㌻ 
19 なんぢは何なににも懼おそれさせらるること無なくして偃󠄂ふしやまん 必かならず衆多おほくの者ものなんぢを悅よろこばせんと務つとむべし 20 然されど惡あしき者ものは目め曚くらみ逃󠄄遁󠄅處のがれどころを失うしなはん 其その望󠄇のぞみは氣いきの斷たゆると等ひとしかるべし

第12章

1 ヨブこたへて言いふ 2 なんぢら而已のみまことに人ひとなり 智慧󠄄ちゑは汝なんぢらと共ともに死しなん 3 我われもなんぢらと同おなじく心こゝろあり 我われはなんぢらの下したに立たゝず 誰たれか汝なんぢらの言いひし如ごとき事ことを知しらざらんや 4 我われは神かみに龥よばはりて聽きかるる者ものなるに今いまその友ともに嘲󠄂あざけらるる者ものとなれり 嗚呼あゝ正たゞしくかつ完まつたき人ひとあざけらる 5 安逸やすらかなる者ものは思おもふ 輕侮あなどりは不幸ふしあはせなる者ものに附つきそひ足あしのよろめく者ものを俟まつと 6 掠奪かすめうばふ者ものの天てん幕まくは繁榮さかえ 神かみを怒いからせ自己おのれの手てに神かみを携たづさふる者ものは安泰やすらかなり 7 今いま請󠄃こふ獸けものに問とへ然さらば汝なんぢに敎をしへん 天空󠄃そらの鳥とりに問とへ然さらばなんぢに語かたらん 8 地ちに言いへ然さらばなんぢに敎をしへん 海うみの魚うをもまた汝なんぢに述󠄃のぶべし 9 誰たれかこの一切すべての者ものに依よりてヱホバの手てのこれを作つくりしなるを知しらざらんや 10 一切すべての生物いきものの生氣いのちおよび一切すべての人ひとの靈魂たましひともに彼かれの手ての中うちにあり 11 耳みゝは説話ことばを辨わきまへざらんや その狀さまあたかも口くちの食󠄃物くひものを味あじはふがごとし 12 老おいたる者ものの中うちには智慧󠄄ちゑあり 壽長者いのちながきものの中うちには頴悟さとりあり 13 智慧󠄄ちゑと權能ちからは神かみに在あり 智謀ちぼうと頴悟さとりも彼かれに屬ぞくす 14 視みよ彼かれ毀こぼてば再ふたゝび建󠄄たつること能あたはず 彼かれ人ひとを閉とぢこむれば開ひらき出いだすことを得えず 15 視みよ彼かれ水みづを止とゞむれば則すなはち涸かれ 水みづを出いだせば則すなはち地ちを滅ほろぼす〘717㌻〙 16 權能ちからと頴悟さとりは彼かれに在あり 惑まどはさるる者ものも惑まどはす者ものも共ともに彼かれに屬ぞくす 17 彼かれは議士ぎしを裸體はだかにして擄とらへゆき 審判󠄄人さばきびとをして愚おろかなる者ものとならしめ 18 王わう等たちの權威󠄂いきほひを解ときて反かへつて之これが腰󠄃こしに繩󠄂なはをかけ 19 祭司さいし等たちを裸體はだかにして擄とらへゆき 權力ちからある者ものを滅ほろぼし 20 言ことば爽さわやかなる者ものの言語ことばを取とり除のぞき 老おいたる者ものの了知さとりを奪うばひ 21 侯伯きみたる者等ものどもに恥辱はぢを蒙かうむらせ 强つよき者ものの帶おびを解とき 22 暗󠄃中くらきうちより隱かくれたる事等ことどもを顯あらはし 死しの蔭かげを光明ひかりに出いだし
 928㌻ 
23 國々くに〴〵を大おほいにしまた之これを滅ほろぼし 國々くに〴〵を廣ひろくしまた之これを舊もとに歸かへし 24 地ちの民たみの長かしらたる者等ものどもの了知さとりを奪うばひ これを路みちなき荒野あれのに吟行さまよはしむ 25 彼かれらは光明ひかりなき暗󠄃やみにたどる 彼かれまた彼かれらを醉よへる人ひとのごとくによろめかしむ

第13章

1 視みよわが目めこれを盡こと〴〵く觀み わが耳みゝこれを聞きゝて通󠄃達󠄃さとれり 2 汝なんぢらが知しるところは我われもこれを知しる 我われは汝なんぢらに劣らず 3 然しかりと雖いへども我われは全󠄃能者ぜんのうしやに物もの言いはん 我われは神かみと論ろんぜんことをのぞむ 4 汝なんぢらは只たゞ謊󠄃言いつはりを造󠄃つくり設まうくる者もの 汝なんぢらは皆みな無用むようの醫師くすしなり 5 願ねがはくは汝なんぢら全󠄃まつたく默もくせよ 然しかするは汝なんぢらの智慧󠄄ちゑなるべし 6 請󠄃こふわが論ろんずる所󠄃ところを聽きき 我わが唇くちびるにて辨爭いひあらそふ所󠄃ところを善よく聽きけ 7 神かみのために汝なんぢら惡あしき事ことを言いふや 又󠄂またかれのために虛僞いつはりを述󠄃のぶるや 8 汝なんぢら神かみの爲ために偏󠄃かたよるや またかれのために爭あらそはんとするや 9 神かみもし汝なんぢらを鑒察しらべたまはば豈あに善よからんや 汝等なんぢら人ひとを欺あざむくごとくに彼かれを欺あざむき得えんや 10 汝等なんぢらもし密ひそかに私わたくしするあらば彼かれかならず汝なんぢらを責せめん 11 その威󠄂光ゐくわうなんぢらを懼おそれしめざらんや 彼かれを懼おそるる畏懼おそれなんぢらに臨のぞまざらんや 12 なんぢらの諭󠄄言さとしは灰󠄃はひに譬たとふべし なんぢらの城󠄃しろは土つちの城󠄃しろとなる 13 默もくして我われにかかはらざれ 我われ言語ものいはんとす 何事なにごとにもあれ我われに來きたらば來きたれ 14 我われなんぞ我わが肉󠄁にくをわが齒はの間あひだに置おき わが生命いのちをわが手てに置おかんや 15 彼かれわれを殺ころすとも我われは彼かれに依賴よりたのまん 唯たゞわれは吾道󠄃わがみちを彼かれの前󠄃まへに明あきらかにせんとす 16 彼かれまた終󠄃つひに我わが救拯すくひとならん 邪󠄅曲よこしまなる者ものは彼かれの前󠄃まへにいたること能あたはざればなり 17 なんぢら聽きけよ 我わが言ことばを聽きけ我わが述󠄃のぶる所󠄃ところをなんぢらの耳みゝに入いらしめよ 18 視みよ我われすでに吾わが事ことを言竝いひならべたり 必かならず義たゞしとせられんと自みづから知しる 19 誰たれか能よくわれと辨論いひあらそふ者ものあらん 若もしあらば我われは口くちを緘とぢて死しなん 20 惟たゞわれに二ふたつの事ことを爲なしたまはざれ 然さらば我われなんぢの面かほをさけて隱かくれじ 21 なんぢの手てを我われより離はなしたまへ 汝なんぢの威󠄂嚴ゐげんをもて我われを懼おそれしめたまはざれ 22 而しかして汝なんぢわれを召めしたまへ 我われこたへん 又󠄂またわれにも言ものいはしめて汝なんぢわれに答こたへたまへ〘718㌻〙 23 我われの愆とがわれの罪つみいくばくなるや 我われの背反そむきと罪つみとを我われに知しらしめたまへ
 929㌻ 
24 何なにとて御顏みかほを隱かくし我われをもて汝なんぢの敵てきとなしたまふや 25 なんぢは吹ふき廻まはさるる木この葉はを威󠄂おどし 干たてあがりたる籾殼もみがらを追󠄃おひたまふや 26 汝なんぢは我われにつきて苦にがき事等ことどもを書かきしるし 我われをして我わが幼稚時いとけなきときの罪つみを身みに負󠄅おはしめ 27 わが足あしを足械あしがせにはめ 我わがすべての道󠄃みちを伺うかがひ 我わが足あしの周󠄃圍󠄃まはりに限界かぎりをつけたまふ 28 我われは腐くされたる者もののごとくに朽くちゆき 蠧むしに食󠄃くはるる衣服󠄃ころもに等ひとし

第14章

1 婦󠄃をんなの產うむ人ひとはその日ひ少すくなくして艱難なやみ多おほし 2 その來きたること花はなのごとくにして散ちり 其その馳はすること影かげのごとくにして止とゞまらず 3 なんぢ是かくのごとき者ものに汝なんぢの目めを啓󠄃ひらきたまふや 汝なんぢわれを汝なんぢの前󠄃まへにひきて審判󠄄さばきしたまふや 4 誰たれか淸きよき物ものを汚けがれたる物ものの中うちより出いだし得うる者ものあらん 一人ひとりも無なし 5 その日ひ旣󠄁すでに定さだまり その月󠄃つきの數󠄄かずなんぢに由より 汝なんぢこれが區域さかひを立たてて越こえざらしめたまふなれば 6 是これに目めを離はなして安息やすみを得えさせ 之これをして傭人やとひびとのその日ひを樂たのしむがごとくならしめたまへ 7 それ木きには望󠄇のぞみあり 假令たとひ砍きらるるとも復また芽めを出いだしてその枝えだ絕たえず 8 たとひ其その根ね地ちの中なかに老おい 幹みき土つちに枯かるるとも 9 水みづの潤霑うるほしにあへば即すなはち芽めをふき枝えだを出いだして若樹わかきに異ことならず 10 然されど人ひとは死しぬれば消󠄃きえうす 人ひと氣いき絕たえなば安いづくに在あらんや 11 水みづは海うみに竭つき河かはは涸かれてかわく 12 是かくのごとく人ひとも寢臥いねふしてまた興おきず 天てんの盡つくるまで目め覺さめず睡眠ねむりを醒さまさざるなり 13 願ねがはくは汝なんぢわれを陰府よみに藏かくし 汝なんぢの震怒いかりの息やむまで我われを掩おほひ 我わがために期ときを定さだめ而しかして我われを念おもひたまへ 14 人ひともし死しなばまた生いきんや 我われはわが征戰いくさの諸しよ日にちの間あひだ望󠄇のぞみをりて我わが變更󠄃かはりの來きたるを待またん 15 なんぢ我われを呼よびたまはん 而しかして我われこたへん 汝なんぢかならず汝なんぢの手ての作わざを顧󠄃かへりみたまはん 16 今いまなんぢは我われに步履あゆみを數󠄄かぞへたまふ 我わが罪つみを汝なんぢうかがひたまはざらんや 17 わが愆とがは凡すべて嚢ふくろの中なかに封ふうじてあり汝なんぢわが罪つみを縫󠄃ぬひこめたまふ
 930㌻ 
18 それ山やまも倒たふれて終󠄃つひに崩󠄃くづれ巖石いはほも移うつりてその處ところを離はなる 19 水みづは石いしを鑿うがち 浪なみは地ちの塵ちりを押おし流ながす 汝なんぢは人ひとの望󠄇のぞみを斷たちたまふ 20 なんぢは彼かれを永ながく攻せめなやまして去さりゆかしめ 彼かれの面容かほかたちの變かはらせて逐󠄃おひやりたまふ 21 その子こ尊󠄅貴たふとくなるも彼かれは之これを知しらず 卑賤いやしくなるもまた之これを曉さとらざるなり 22 只たゞ己おのれみづからその肉󠄁にくに痛苦いたみを覺おぼえ己おのれみづからその心こゝろに哀なげく而已のみ

第15章

1 テマン人びとエリパズ答こたへて曰いはく 2 智者ちしやあに虛むなしき知識ちしきをもて答こたへんや豈あに東風ひがしかぜをその腹はらに充みたさんや 3 あに裨たすけなき談はなし益えきなき詞ことばをもて辨論あげつらはんや 4 まことに汝なんぢは神かみを畏おそるる事ことを棄すて その前󠄃まへに禱いのることを止とゞむ〘719㌻〙 5 なんぢの罪つみなんぢの口くちを敎をしふ 汝なんぢはみづから擇えらびて狡猾人さかしらびとの舌したを用もちふ 6 なんぢの口くちみづから汝なんぢの罪つみを定さだむ 我われには非あらず汝なんぢの唇くちびるなんぢの惡あしきを證あかしす 7 汝なんぢあに最初いやさきに世よに生うまれたる人ひとならんや 山やまよりも前󠄃さきに出來いできしならんや 8 神かみの御謀議みはかりを聞きゝしならんや 智慧󠄄ちゑを獨ひとりにて藏をさめをらんや 9 なんぢが知しる所󠄃ところは我われらも知しらざらんや 汝なんぢが曉さとるところは我われらの心こゝろにも在あらざらんや 10 我われらの中なかには白髮しらがの人ひとおよび老おいたる人ひとありて汝なんぢの父󠄃ちゝよりも年とし高たかし 11 神かみの慰藉󠄃なぐさめおよび夫かの柔やはらかき言詞ことばを汝なんぢ小ちひさしとするや 12 なんぢ何なんぞかく心こゝろ狂くるふや 何なんぞかく目めをしばたたくや 13 なんぢ是かくのごとく神かみに對むかひて氣きをいらだて 斯かゝる言詞ことばをなんぢの口くちよりいだすは如何いかにぞや 14 人ひとは如何いかなる者ものぞ 如何いかにしてか潔󠄄きよからん 婦󠄃をんなの產うみし者ものは如何いかなる者ものぞ 如何いかにしてか義ただしからん 15 それ神かみはその聖󠄃者きよきものにすら信しんを置おきたまはず 諸もろ〳〵の天てんもその目めの前󠄃まへには潔󠄄きよからざるなり 16 况いはんや罪つみを取とること水みづを飮のむがごとくする憎にくむべき穢けがれたる人ひとをや 17 我われなんぢに語かたる所󠄃ところあらん 聽きけよ 我われ見みたる所󠄃ところを述󠄃のべん 18 是これすなはち智者ちしや等たちが父󠄃祖ふそより受うけて隱かくすところ無なく傳つたへ來きし者ものなり 19 彼かれらに而已のみこの地ちは授さづけられて外國人とつくにびとは彼等かれらの中うちに往󠄃來ゆききせしこと無なかりき 20 惡あしき人ひとはその生いける日ひの間あひだつねに悶もだへ苦くるしむ 强暴人あらきひとの年としは數󠄄かぞへて定さだめおかる
 931㌻ 
21 その耳みゝには常つねに懼怖おそろしき音󠄃おときこえ平󠄃安へいあんの時ときにも滅ほろぼす者ものこれに臨のぞむ 22 彼かれは幽暗󠄃くらやみを出いで得うるとは信しんぜず 目めざされて劒つるぎに付わたさる 23 彼かれ食󠄃物くひものは何處いづくにありやと言いひつつ尋󠄃たづねありき 黑暗󠄃日くらきひの備そなへられて己おのれの側わきにあるを知しる 24 患難なやみと苦痛くるしみとはかれを懼おそれしめ 戰鬪たたかひの準備そなへをなせる王わうのごとくして彼かれに打うち勝󠄃かちん 25 彼かれは手てを伸のべて神かみに敵てきし 傲たかぶりて全󠄃能者ぜんのうしやに悖もとり 26 頸うなじを强こはくし 厚あつき楯たての面おもてを向むけて之これに馳はせかかり 27 面かほに肉󠄁にくを滿みたせ 腰󠄃こしに脂あぶらを凝こらし 28 荒あらされたる邑々まち〳〵に住󠄃居すまひを設まうけて人ひとの住󠄃すむべからざる家いへ 石堆いしづかとなるべき所󠄃ところに居をる 29 是故このゆえに彼かれは富とまず その貨物たからは永ながく保たもたず その所󠄃有󠄃物もちものは地ちに蔓延󠄅ひろがらず 30 また自己おのれは黑暗󠄃くらやみを出いづるに至いたらず 火燄ほのほその枝えだ葉はを枯からさん 而しかしてその身みは神かみの口くちの氣吹いぶきによりて亡うせゆかん 31 彼かれは虛妄むなしきことを恃たのみて自みづから欺あざむくべからず 其その報むくいは虛妄むなしきことなるべければなり 32 彼かれの日ひの來きたらざる先さきに其その事こと成󠄃なるべし 彼かれの枝えだは緑みどりならじ 33 彼かれは葡萄ぶだうの樹きのその熟じゆくせざる果みを振ふり落おとすがごとく 橄欖かんらんの樹きのその花はなを落おとすがごとくなるべし 34 邪󠄅曲よこしまなる者ものの宗族やからは零落おちぶれ 賄賂まひなひの家いへは火ひに焚やけん 35 彼等かれらは惡念あしきおもひを孕はらみ 虛妄むなしきことを生うみ その胎はらにて詭計いつはりを調󠄃ととのふ〘720㌻〙

第16章

1 ヨブ答こたへて曰いはく 2 斯かゝる事ことは我われおほく聞きけり 汝なんぢらはみな人ひとを慰なぐさめんとして却かへつて人ひとを煩わづらはす者ものなり 3 虛むなしき言語ことばあに終󠄃極はてしあらんや 汝なんぢなにに勵はげまされて應答こたへをなすや 4 我われもまた汝なんぢらの如ごとくに言いふことを得う もし汝なんぢらの身みわが身みと處ところを換かへなば我われは言語ことばを練ねりて汝なんぢらを攻せめ 汝なんぢらにむかひて首かしらを搖ふることを得え 5 また口くちをもて汝なんぢらを强つよくし 唇くちびるの慰藉󠄃なぐさめをもて汝なんぢらの憂愁うれへを解とくことを得うるなり 6 たとひ我われ言ことばを出いだすとも我わが憂愁うれへは解とけず 默もくするとても何なんぞ我わが身みの安やすくなること有󠄃あらんや 7 彼かれいま已すでに我われを疲つからしむ 汝なんぢわが宗族やからをことごとく荒あらせり 8 なんぢ我われをして皺しわよらしめたり 是これわれに向むかひて見證あかしをなすなり 又󠄂またわが痩やせおとろへたる狀貌すがたわが面かほの前󠄃まへに現あらはれ立たちて我われを攻せむ
 932㌻ 
9 かれ怒いかりてわれを撕裂かきさきかつ窘くるしめ 我われにむかひて齒はを噛鳴かみならし我わが敵てきとなり目めを鋭とくして我われを看みる 10 彼かれら我われにむかひて口くちを張はり 我われを賤いやしめてわが頬ほゝを打うち 相あひ集あつまりて我われを攻せむ 11 神かみわれを邪󠄅曲よこしまなる者ものに交󠄄わたし 惡あしき者ものの手てに擲なげうちたまへり 12 我われは安穩やすらかなる身みなりしに彼かれいたく我われを打惱うちなやままし 頸くびを執とらへて我われをうちくだき遂󠄅つひに我われを立たてて鵠まととなしたまひ 13 その射󠄂手いてわれを繞めぐり圍󠄃かこめり やがて情󠄃なさけもなく我わが腰󠄃こしを射󠄂い透󠄃とほし わが膽きもを地ちに流ながれ出いだしめたまふ 14 彼かれはわれを打敗うちやぶりて破壞やぶれに破壞やぶれを加くはへ 勇󠄃士ますらをのごとく我われに奔はせかかりたまふ 15 われ麻󠄃布あさぬのをわが肌はだに縫󠄃ぬひつけ我わが角つのを塵ちりにて汚けがせり 16 我わが面かほは泣なきて頳あかくなり 我わが目緣まぶちには死しの蔭かげあり 17 然しかれども我わが手てには不義ふぎあること無なく わが祈禱いのりは淸きよし 18 地ちよ我わが血ちを掩おほふなかれ 我わが號呼さけびは休やすむ處ところを得えざれ 19 視みよ今いまにても我わが證あかしとなる者もの天てんにあり わが眞󠄃實まことを表明あらはす者もの高たかき處ところにあり 20 わが朋友ともは我われを嘲󠄂あざけれども我わが目めは神かみにむかひて淚なみだを注そゝぐ 21 願ねがはくは彼かれ人ひとのために神かみと論辨ろんべんし 人ひとの子このためにこれが朋友ともと論辨ろんべんせんことを 22 數󠄄年すねんすぎさらば我われは還󠄃かへらぬ旅󠄃たび路ぢに往󠄃ゆくべし

第17章

1 わが氣息いきは已すでにくさり 我わが日ひすでに盡つきなんとし墳墓はかわれを待まつ 2 まことに嘲󠄂弄者あざけるもの等どもわが傍かたはらに在あり 我わが目めは彼かれらの辨爭いひあらそふを常つねに見みざるを得えず 3 願ねがはくは質ものしろを賜たまふて汝なんぢみづから我われの保證うけあひとなりたまへ 誰たれか他ほかにわが手てをうつ者ものあらんや 4 汝なんぢ彼かれらの心こゝろを閉とぢて悟さとるところ無なからしめたまへり 必かならず彼かれらをして愈󠄃まさらしめたまはじ 5 朋友ともを交󠄄付わたして掠奪かすめに遭󠄃あはしむる者ものは其その子等こどもの目め潰つぶるべし 6 彼かれわれを世よの民たみの笑柄わらひぐさとならしめたまふ 我われは面かほに唾つばきせらるべき者ものとなれり〘721㌻〙 7 かつまた我わが目めは憂愁うれへによりて昏くらみ 肢體からだは凡すべて影かげのごとし 8 義たゞしき者ものは之これに驚おどろき 無辜者つみなきものは邪󠄅曲よこしまなる者ものを見みて憤いきどほる 9 然さりながら義たゞしき者ものはその道󠄃みちを堅かたく持たもち 手ての潔󠄄淨いさぎよき者ものはますます力ちからを得うるなり 10 請󠄃こふ汝なんぢら皆みなふたゝび來きたれ 我われは汝なんぢらの中うちに一人ひとりも智かしこき者ものあるを見みざるなり 11 わが日ひは已すでに過󠄃すぎ わが計はかる所󠄃ところわが心こゝろに冀こひねがふ所󠄃ところは已すでに敗やぶれたり
 933㌻ 
12 彼かれら夜よるを晝ひるに變かふ 黑暗󠄃くらやみの前󠄃まへに光明ひかりちかづく 13 我われもし俟まつところ有󠄃あらば是これわが家いへたるべき陰府よみなるのみ 我われは黑暗󠄃くらやみにわが牀とこを展のぶ 14 われ朽腐くさりに向むかひては汝なんぢはわが父󠄃ちゝなりと言いひ 蛆うじに向むかひては汝なんぢは我わが母はゝわが姉妹しまいなりと言いふ 15 然さればわが望󠄇のぞみはいづくにかある 我わが望󠄇のぞみは誰たれかこれを見みる者ものあらん 16 是これは下くだりて陰府よみの關くわんに到いたらん 之これと齊ひとしく我わが身みは塵ちりの中なかに臥靜ふししづまるべし

第18章

1 シユヒ人びとビルダデこたへて曰いはく 2 汝等なんぢらいつまで言語ことばを獵求かりもとむることをするや 汝なんぢら先まづ曉さとるべし 然しかる後のちわれら辨論あげつらはん 3 われら何なんぞ獸畜けものとおもはるべけんや 何なんぞ汝なんぢらの目めに汚穢けがれたる者ものと見みらるべけんや 4 なんぢ怒いかりて身みを裂さく者ものよ 汝なんぢのためとて地ちあに棄すてられんや 磐いはあに其處そのところより移うつされんや 5 惡あしき者ものの光明ひかりは滅けされ 其その火ひの焰ほのほは照てらじ 6 その天てん幕まくの內うちなる光明ひかりは暗󠄃くらくなり其そが上うへの燈火ともしびは滅けさるべし 7 またその强つよき步履あゆみは狹せばまり 其その計はかるところは自分󠄃みづからを陷おとしいる 8 すなはち其その足あしに逐󠄃おはれて網󠄄あみに到いたり また陷阱おとしあなの上うへを步あゆむに 9 索なははその踵くびすに纒󠄂まつはり 羂わなこれを執とらふ 10 索なはかれを執とらふるために地ちに隱かくしあり 羂わなかれを陷おとしいるるために路みちに設まうけあり 11 怖おそろしき事こと四方よもにおいて彼かれを懼おそれしめ 其その足あしにしたがひて彼かれをおふ 12 その力ちからは餓󠄃うゑ 其その傍かたはらには災禍わざはひそなはり 13 その膚はだへの肢えだは蝕󠄃壞くひやぶらる 即すなはち死しの初子うひごこれが肢えだを蝕󠄃壞くひやぶるなり 14 やがて彼かれはその恃たのめる天てん幕まくより曳ひき離はなされて懼怖おそれの王わうの許もとに驅おひやられん 15 彼かれに屬ぞくせざる者ものかれの天てん幕まくに住󠄃すみ 硫磺いわうかれの家いへの上うへに降󠄄ふらん 16 下しもにてはその根ね枯かれ 上かみにてはその枝えだ砍きらる 17 彼かれの跡あとは地ちに絕たえ 彼かれの名なは街衢ちまたに傳つたはらじ 18 彼かれは光明ひかりの中うちより黑暗󠄃くらやみに逐󠄃おひやられ 世よの中うちより驅おひ出いだされん 19 彼かれはその民たみの中なかに子こも無なく孫まごも有󠄃あらじ また彼かれの住󠄃所󠄃すみかには一人ひとりも遺󠄃のこる者ものなからん 20 之これが日ひを見みるにおいて後のちに來きたる者ものは駭おどろき 先さきに出いでし者ものは怖おぢおそれん
 934㌻ 
21 かならず惡あしき人ひとの住󠄃所󠄃すみかは是かくのごとく 神かみを知しらざる者ものの所󠄃ところは是かくのごとくなるべし〘722㌻〙

第19章

1 ヨブこたへて曰いはく 2 汝なんぢら我わが心こゝろをなやまし 言語ことばをもて我われを打うちくだくこと何時いつまでぞや 3 なんぢら已すでに十次󠄄とたびも我われを辱はづかしめ我われを惡あしく待あしらひてなほ愧はづるところ無なし 4 假令たとひわれ眞󠄃まことに過󠄃あやまちたらんもその過󠄃あやまちは我われの身みに止とゞまれり 5 なんぢら眞󠄃まことに我われに向むかひて誇ほこり我わが身みに羞はづべき行爲わざありと證あかしするならば 6 神かみわれを虐󠄃しへたげその網󠄄羅あみをもて我われを包󠄃つゝみたまへりと知しるべし 7 我われ虐󠄃しへたげらるると叫さけべども答こたへなく 呼よばはり求もとむれども審理さばきなし 8 彼かれわが路みちの周󠄃圍󠄃まはりに垣かきを結ゆひめぐらして逾こゆる能あたはざらしめ 我わが行ゆく途󠄃みちに黑暗󠄃くらやみを蒙かうむむらしめ 9 わが光榮さかえを褫󠄃はぎ我わが冠冕󠄅かんむりを首かうべより奪うばひ 10 四方よもより我われを毀こぼちて失うせしめ 我わが望󠄇のぞみを樹きのごとくに根ねより拔ぬき 11 我われにむかひて震怒いかりを燃もやし 我われを敵かたきの一人ひとりと見みたまへり 12 その軍旅󠄃ぐんりよひとしく進󠄃すゝみ途󠄃みちを高たかくして我われに攻寄せめよせ わが天てん幕まくの周󠄃圍󠄃まはりに陣ぢんを張はれり 13 彼かれわが兄弟きやうだい等たちをして遠󠄄とほくわれを離はなれしめたまへり 我われを知しる人々ひと〴〵は全󠄃まつたく我われに疎うとくなりぬ 14 わが親戚うからやからは往󠄃來ゆききを休やめ わが朋友ともだちはわれを忘󠄃わすれ 15 わが家いへに寄寓やどる者ものおよびわが婢しもめ等らは我われを見みて外人あだしびとのごとくす 我われかれらの前󠄃まへにては異國人ことくにびとのごとし 16 われわが僕しもべを喚よべどもこたへず 我われ口くちをもて彼かれに請󠄃こはざるを得えざるなり 17 わが氣息いきはわが妻つまに厭いとはれ わが臭氣にほひはわが同胎おなじはらの子等こどもに嫌󠄃きらはる 18 童子わらべ等らさへも我われを侮あなどり 我われ起󠄃おきあがれば即すなはち我われを嘲󠄂あざける 19 わが親したしき友ともわれを惡にくみわが愛あいしたる人々ひと〴〵ひるがへりてわが敵てきとなれり 20 わが骨ほねはわが皮かはと肉󠄁にくとに貼つけり 我われは僅わづかに齒はの皮かはを全󠄃まつたうして逃󠄄のがれしのみ 21 わが友ともよ汝等なんぢらわれを恤あはれめ 我われを恤あはれめ 神かみの手てわれを擊うてり 22 汝なんぢらなにとて神かみのごとくして我われを攻せめ わが肉󠄁にくに饜󠄂あくことなきや 23 望󠄇のぞむらくは我わが言ことばの書かき留とめられんことを 望󠄇のぞむらくは我わが言ことば書ふみに記しるされんことを
 935㌻ 
24 望󠄇のぞむらくは鐡くろがねの筆ふでと鉛󠄅なまりとをもて之これを永ながく磐石いはに鐫えりつけおかんことを 25 われ知しる我われを贖あがなふ者ものは活いく 後のちの日ひに彼かれかならず地ちの上うへに立たゝん 26 わがこの皮かはこの身みの朽くちはてん後のち われ肉󠄁にくを離はなれて神かみを見みん 27 我われみづから彼かれを見みたてまつらん 我わが目めかれを見みんに識しらぬ者もののごとくならじ 我わが心こゝろこれを望󠄇のぞみて焦こがる 28 なんぢら若もしわれら如何いかに彼かれを攻せめんかと言いひ また事ことの根ねわれに在ありと言いはば 29 劍つるぎを懼おそれよ 忿怒いかりは劍つるぎの罰ばつをきたらす 斯かくなんぢら遂󠄅つひに審判󠄄さばきのあるを知しらん

第20章

1 ナアマ人びとゾパルこたへて曰いはく 2 これに因よりてわれ答こたへをなすの思念おもひを起󠄃おこし心こゝろしきりに之これがために急󠄃せかる 3 我われを辱はづかしむる警語いましめを我われ聞きかざるを得えず 然しかしながらわが了知さとりの性せいわれをして答こたふることを得えせしむ〘723㌻〙 4 なんぢ知しらずや古昔いにしへより地ちに人ひとの置おかれしより以來このかた 5 惡あしき人ひとの勝󠄃誇かちほこりは暫時しばらくにして邪󠄅曲よこしまなる者ものの歡樂たのしみは時ときの間まのみ 6 その高たかさ天てんに達󠄃たつしその首かしら雲くもに及およぶとも 7 終󠄃つひには己おのれの糞ふんのごとくに永ながく亡絕うせたゆべし 彼かれを見識みしれる者ものは言いはん彼かれは何處いづくにありやと 8 彼かれは夢ゆめの如ごとく過󠄃すぎさりて復また見みるべからず 夜よるの幻まぼろしのごとく追󠄃おひはらはれん 9 彼かれを見みたる目めかさねてかれを見みることあらず 彼かれの住󠄃すみたる處ところも再ふたゝびかれを見みること無なからん 10 その子等こどもは貧󠄃まづしき者ものに寛待なさけを求もとめん 彼かれもまたその取とりし貨財たからを手てづから償かへさん 11 その骨ほねに少壯氣勢わかきいきほひ充みてり 然しかれどもその氣勢いきほひもまた塵ちりの中なかに彼かれとおなじく臥ふさん 12 かれ惡あくを口くちに甘あましとして舌したの底そこに藏をさめ 13 愛をしみて捨󠄃すてず 之これを口くちの中なかに含ふくみをる 14 然されどその食󠄃物くひもの膓はらわたの中なかにて變かはり 腹はらの內うちにて蝮まむしの毒󠄂どくとならん 15 かれ貨財たからを呑のみたれども復また之これを吐はきいださん 神かみこれを彼かれの腹はらより推おしいだしたまふべし 16 かれは蝮まむしの毒󠄂どくを吸すひ 虺くちばみの舌したに殺ころされん 17 かれは蜂はち蜜みつと牛酪󠄂ぎうらくの湧󠄂わきて流ながるる河川かは〴〵を視みざらん 18 その勞苦ほねおりて獲えたる物ものは之これを償かへして自みづから食󠄃くらはず 又󠄂またそれを求もとめたる所󠄃有󠄃もちものよりは快樂たのしみを得えじ 19 是こは彼かれ貧󠄃まづしき者ものを虐󠄃遇󠄃しへたげて之これを棄すてたればなり 假令たとひ家いへを奪うばひとるとも之これを改あらため作つくることを得えざらん
 936㌻ 
20 かれはその腹はらに飽󠄄あくことを知しらざるが故ゆゑに自己おのれの深ふかく喜よろこぶ物ものをも保たもつこと能あたはじ 21 かれが遺󠄃のこして食󠄃くらはざる物ものとては一ひとつも無なし 是これによりてその福祉さいはひは永ながく保たもたじ 22 その繁榮さかえの眞󠄃盛󠄃まさかりにおいて彼かれは艱難なやみに迫󠄃せまられ 乏とぼしき者ものすべて手てをこれが上うへに置おかん 23 かれ腹はらを充みたさんとすれば神かみ烈はげしき震怒いかりをその上うへに下くだし その食󠄃しよくする時ときにこれをその上うへに降󠄄ふらしたまふ 24 かれ鐡くろがねの器うつはを避󠄃さくれば銅あかがねの弓ゆみこれを射󠄂い透󠄃とほす 25 是こゝに於おいて之これをその身みより拔ぬけば閃きらめく鏃やじりその膽きもより出いできたりて畏懼おそれこれに臨のぞむ 26 各種もろ〳〵の黑暗󠄃くらやみこれが寳物たからものををほろぼすために蓄たくはへらる 又󠄂また人ひとの吹ふきおこせしに非あらざる火ひかれを焚やき その天てん幕まくに遺󠄃のこりをる者ものをも焚やかん 27 天てんかれの罪つみを顯あらはし 地ち興おりて彼かれを攻せめん 28 その家いへの儲蓄たくはへは亡うせて神かみの震怒いかりの日ひに流ながれ去さらん 29 是これすなはち惡あしき人ひとが神かみより受うくる分󠄃ぶん 神かみのこれに定さだめたまへる數󠄄すうなり

第21章

1 ヨブこたへて曰いはく 2 請󠄃こふ汝等なんぢらわが言ことばを謹つゝしんで聽きき 之これをもて汝なんぢらの慰藉󠄃なぐさめに代かへよ 3 先まづわれに容ゆるして言いはしめよ 我わが言いへる後のちなんぢ嘲󠄂あざけるも可よし 4 わが怨言つぶやきは世よの人ひとの上うへにつきて起󠄃おこれる者ものならんや 我われなんぞ氣きをいらだつ可べからざらんや〘724㌻〙 5 なんぢら我われを視みて驚おどろき手てを口くちにあてよ 6 われ思おもひまはせば畏おそろしくなりて身體からだしきりに戰慄わななく 7 惡あしき人ひと何なにとて生いきながらへ 老おいかつ勢力ちから强つよくなるや 8 その子等こどもはその周󠄃圍󠄃まはりにありてその前󠄃まへに堅かたく立たち その子孫まごこもその目めの前󠄃まへに堅かたく立たつべし 9 またその家いへは平󠄃安やすらかにして畏懼おそれなく 神かみの杖つゑその上うへに臨のぞまじ 10 その牡牛をうしは種たねを與あたへて過󠄃あやまらず その牝め牛うしは子こを產うみてそこなふ事ことなし 11 彼等かれらはその少ちひさき者等ものどもを外そとに出いだすこと群むれのごとし その子等こどもは舞まひをどる 12 彼等かれらは鼓つづみと琴こととをもて歌うたひ 笛ふえの音󠄃ねに由よりて樂たのしみ 13 その日ひを幸福さいはひに暮くらし まばたくまに陰府よみにくだる 14 然しかはあれども彼等かれらは神かみに言いへらく我われらを離はなれ賜たまへ 我われらは汝なんぢの道󠄃みちをしることを好このまず
 937㌻ 
15 全󠄃能者ぜんのうしやは何なに者ものなれば我われらこれに事つかふべき 我儕われらこれに祈いのるとも何なにの益えきを得えんやと 16 視みよ彼かれらの福祿さいはひは彼かれらの力ちからに由よるにあらざるなり 惡あく人にんの希圖󠄃はかりごとは我われの與くみする所󠄃ところにあらず 17 惡あく人にんのその燈火ともしびを滅けさるる事こと幾度いくたびありしか その滅亡ほろびのこれに臨のぞむ事こと 神かみの怒いかりて之これに艱苦くるしみを蒙かうむらせたまふ事こと幾度いくたび有󠄃ありしか 18 かれら風かぜの前󠄃まへの藁わらの如ごとく 暴風あらしに吹ふきさらるる籾殼もみがらの如ごとくなること幾度いくたび有󠄃ありしか 19 神かみかれの愆とがを積つみたくはへてその子孫しそんに報むくいたまふか 之これを彼かれ自己みづからの身みに報むくい知しらしむるに如しかず 20 かれをして自みづからその滅亡ほろびを目めに視みさせ かつ全󠄃能者ぜんのうしやの震怒いかりを飮のましめよ 21 その月󠄃つきの數󠄄かずすでに盡つくるに於おいては何なんぞその後のちの家いへに關かゝはる所󠄃ところあらん 22 神かみは天てんにある者等ものどもをさへ審判󠄄さばきたまふなれば誰たれか能よくこれに知識ちしきを敎をしへんや 23 或ある人ひとは繁榮さかえを極きはめ全󠄃まつたく平󠄃穩おだやかにかつ安康やすらかにして死しに 24 その器うつはに乳󠄃ちゝ充みち その骨ほねの髓ずゐは潤うるほへり 25 また或ある人ひとは心こゝろを苦くるしめて死しし 終󠄃つひに福祉さいはひをあぢはふる事ことなし 26 是等これらは俱ともに齊ひとしく塵ちりに臥ふして蛆うじにおほはる 27 我われまことに汝なんぢらの思念おもひを知しり 汝なんぢらが我われを攻擊せめうたんとするの計略たくみを知しる 28 なんぢらは言いふ王わう侯こうの家いへは何いづくに在ある 惡あく人にんの住󠄃所󠄃すみかは何いづくにあると 29 汝なんぢらは路みち往󠄃ゆく人々ひと〴〵に詢とはざりしや 彼等かれらの證據あかしを曉さとらざるや 30 すなはち滅亡ほろびの日ひに惡あく人にん遺󠄃のこされ 烈はげしき怒いかりの日ひに惡あく人にんたづさへ出いださる 31 誰たれか能よくかれに打うち向むかひて彼かれの行爲おこなひを指さし示しめさんや 誰たれか能よく彼かれの爲なしたる所󠄃ところを彼かれに報むくゆることを爲せん 32 彼かれは舁かゝれて墓はかに到いたり 塚つかの上うへにて守護まもることを爲なす 33 谷たにの土塊つちくれも彼かれには快こころよし 一切すべての人ひとその後あとに從したがふ 其その前󠄃まへに行ゆける者ものも數󠄄かぞへがたし 34 旣󠄁すでに是かくの如ごとくなるに汝等なんぢらなんぞ徒いたづらに我われを慰なぐさめんとするや 汝なんぢらの答こたふる所󠄃ところはただ虛僞いつはりのみ〘725㌻〙

第22章

1 是こゝにおいてテマン人びとエリパズこたへて曰いはく 2 人ひと神かみを益えきする事ことをえんや 智人かしこきひとも唯たゞみづから益えきする而已のみなるぞかし 3 なんぢ義ただしかるとも全󠄃能者ぜんのうしやに何なにの歡喜よろこびかあらん なんぢ行爲おこなひを全󠄃まつたふするとも彼かれに何なにの利益りえきかあらん
 938㌻ 
4 彼かれ汝なんぢの畏懼おそれの故ゆゑによりて汝なんぢを責せめ汝なんぢを鞫さばきたまはんや 5 なんぢの惡あく大おほいなるにあらずや 汝なんぢの罪つみはきはまり無なし 6 即すなはち汝なんぢは故ゆゑなくその兄弟きやうだいの物ものを抑おさへて質しちとなし 裸はだかなる者ものの衣服󠄃きものを剝はぎて取とり 7 渇かわく者ものに水みづを與あたへて飮のましめず 饑󠄃うゆる者ものに食󠄃物くひものを施ほどこさず 8 力ちからある者もの土地くにを得え 貴たふとき者ものその中うちに住󠄃すむ 9 なんぢは寡婦󠄃やもめに手てを空󠄃むなしうして去さらしむ 孤子みなしごの腕うでは折をらる 10 是こゝをもて網󠄄羅あみなんぢを環󠄃めぐり 畏懼おそれにはかに汝なんぢを擾みだす 11 なんぢ黑暗󠄃くらやみを見みずや 洪水おほみづのなんぢを覆󠄄おほふを見みずや 12 神かみは天てんの高たかきに在いますならずや 星辰ほしの巓󠄄いただきああ如何いかに高たかきぞや 13 是これによりて汝なんぢは言いふ 神かみなにをか知しろしめさん 豈あによく黑雲くろくもの中うちより審判󠄄さばきするを得えたまはんや 14 濃雲こきくもかれを蔽おほへば彼かれは見みたまふ所󠄃ところなし 唯たゞ天あめの蒼穹おほぞらを步あゆみたまふ 15 なんぢ古昔いにしへの世よの道󠄃みちを行おこなはんとするや 是これあしき人ひとの踐ふみたりし者ものならずや 16 彼等かれらは時ときいまだ至いたらざるに打絕うちたたれ その根基もとゐは大水おほみづに押おし流ながされたり 17 彼かれら神かみに言いひけらく我儕われらを離はなれたまへ 全󠄃能者ぜんのうしやわれらのために何なにを爲なすことを得えんと 18 しかるに彼かれは却かへつて佳物よきものを彼かれらの家いへに盈みたしたまへり 但たゞし惡人あくにんの計畫はかりごとは我われに與くみする所󠄃ところにあらず 19 義たゞしき者ものは之これを見みて喜よろこび 無辜者つみなきものは彼かれらを笑わらふ 20 曰いはく我われらの仇あだは誠󠄃まことに滅ほろぼされ 其その盈餘みちあまれる物ものは火ひにて焚やきつくさる 21 請󠄃こふ汝なんぢ神かみと和やはらぎて平󠄃安やすきを得えよ 然しからば福祿さいはひなんぢに來きたらん 22 請󠄃こふかれの口くちより敎誨をしへを受うけ その言語ことばをなんぢの心こゝろに藏をさめよ 23 なんぢもし全󠄃能者ぜんのうしやに歸向たちかへり且かつなんぢの家いへより惡あくを除のぞき去さらば 汝なんぢの身み再ふたゝび興おこされん 24 なんぢの寳たからを土つちの上うへに置おき オフルの黃金こがねを谿河たにがはの石いしの中なかに置おけ 25 然さすれば全󠄃能者ぜんのうしやなんぢの寳たからとなり汝なんぢのために白銀しろがねとなりたまふべし 26 而しかしてなんぢは又󠄂また全󠄃能者ぜんのうしやを喜よろこび且かつ神かみにむかひて面かほをあげん 27 なんぢ彼かれに祈いのらば彼かれなんぢに聽きゝたまはん 而しかして汝なんぢその誓願ちかひをつくのひ果はたさん 28 なんぢ事ことを爲なさんと定さだめなばその事ことなんぢに成󠄃ならん 汝なんぢの道󠄃みちには光ひかり照てらん
 939㌻ 
29 其その卑ひくく降󠄄くだる時ときは汝なんぢいふ昇のぼる哉かなと 彼かれは謙󠄃遜者へりくだるものを拯すくひたまふべし 30 かれは罪つみなきに非あらざる者ものをも拯すくひたまはん 汝なんぢの手ての潔󠄄淨いさぎよきによりて斯かゝる者ものも拯すくはるべし

第23章

1 ヨブこたへて曰いはく 2 我われは今日こんにちにても尙なほつぶやきて服󠄃ふくせず わが禍災わざはひはわが嘆息なげきよりも重おもし 3 ねがはくは神かみをたづねて何處いづくにか遇󠄃あひまつるを知しり其その御座みくらに參まゐりいたらんことを〘726㌻〙 4 我われこの愁訴うつたへをその御前󠄃みまへに陳ならべ口くちを極きはめて辨論あげつらはん 5 我われその我われに答こたへたまふ言ことばを知しり また其そのわれに言いひたまふ所󠄃ところを了さとらん 6 かれ大おほいなる能ちからをもて我われと爭あらそひたまはんや 然しからじ反かへつて我われを眷かへりみたまふべし 7 彼處かしこにては正義人ただしきひとかれと辨爭いひあらそふことを得う 斯かくせば我われを鞫さばく者ものの手てを永ながく免まぬかるべし 8 しかるに我われ東ひがしに往󠄃ゆくも彼かれいまさず 西にしに往󠄃ゆくも亦また見みたてまつらず 9 北きたに工作はたらきたまへども遇󠄃あひまつらず 南みなみに隱かくれ居ゐたまへば望󠄇のぞむべからず 10 わが平󠄃生つねの道󠄃みちは彼かれ知しりたまふ 彼かれわれを試こゝろみたまはば我われは金きんのごとくして出いできたらん 11 わが足あしは彼かれの步履あゆみに堅かたく隨したがへり 我われはかれの道󠄃みちを守まもりて離はなれざりき 12 我われはかれの唇くちびるの命令おふせに違󠄇たがはず 我わが法おきてよりも彼かれの口くちの言語ことばを重おもんぜり 13 かれは一いつに居をる者ものにまします 誰たれか能よくかれをして意おもひを變かへしめん 彼かれはその心こゝろに慾ほつする所󠄃ところをかならず爲なしたまふ 14 然されば我われに向むかひて定さだめし事ことを必かならず成󠄃就なしとげたまはん 是かくのごとき事ことを多おほく彼かれは爲なしたまふなり 15 是故このゆえに我われかれの前󠄃まへに慄ふるふ 我われ考かんがふれば彼かれを懼おそる 16 神かみわが心こゝろを弱󠄃よわくならしめ 全󠄃能者ぜんのうしやわれをして懼おそれしめたまふ 17 かく我われは暗󠄃やみの來きたらぬ先さきわが面かほを黑暗󠄃くらやみの覆󠄄おほふ前󠄃まへに打絕うちたたれざりき

第24章

1 なにゆゑに全󠄃能者ぜんのうしや時期ときを定さだめおきたまはざるや 何故なにゆゑに彼かれを知しる者ものその日ひを見みざるや 2 人ひとありて地界ちざかひを侵󠄃をかし群畜むれを奪うばひて牧かひ 3 孤子みなしごの驢馬ろばを驅去おひさり 寡婦󠄃やもめの牛うしを取とりて質しちとなし 4 貧󠄃まづしき者ものを路みちより推退󠄃おしのけ 世よの受難者なやめるものをして盡こと〴〵く身みを匿かくさしむ
 940㌻ 
5 視みよ彼かれらは荒野あれのにをる野驢馬のろばのごとく出いでて業わざを爲なして食󠄃しよくを求もとめ 野原のはらよりその子等こどものために食󠄃物くひものを得う 6 圃はたけにて惡あしき者ものの麥むぎを刈かり またその葡萄ぶだうの遺󠄃餘のこりを摘つむ 7 かれらは衣服󠄃ころもなく裸はだかにして夜よを明あかし 覆󠄄おほふて寒󠄃氣さむけを禦ふせぐべき物ものなし 8 山やまの暴風あらしに濡ぬれ 庇おほはるるところ無なくして岩いはを抱󠄃いだく 9 孤子みなしごを母はゝの懷ふところより奪うばふ者ものあり 貧󠄃まづしき者ものの身みにつける物ものを取とりて質しちとなす者ものあり 10 貧󠄃まづしき者もの衣服󠄃ころもなく裸はだかにて步あるき 饑󠄃うゑつつ麥束むぎたばを擔になふ 11 人ひとの垣かきの內うちにて油あぶらを搾しめ また渇かわきつつ酒醡さかぶねを踐ふむ 12 邑まちの中なかより人々ひと〴〵の呻吟うめきたちのぼり 傷きずつけられたる者ものの叫喚さけびおこる 然しかれども神かみはその怪事くわいじを省かへりみたまはず 13 また光明ひかりに背そむく者ものあり 光ひかりの道󠄃みちを知しらず 光ひかりの路みちに止とゞまらず 14 人ひとを殺ころす者もの昧爽よあけに興おきいで 受難者なやめるものや貧󠄃まづしき者ものを殺ころし 夜よるは盜賊󠄄ぬすびとのごとくす 15 姦淫かんいんする者ものは我われを見みる目めはなからんと言いひてその目めに昏暮ほのぐれをうかがひ待まち而しかしてその面かほに覆󠄄おほふ物ものを當あつ〘727㌻〙 16 また夜分󠄃よる家いへを穿󠄂うがつ者ものあり 彼等かれらは晝ひるは閉とぢこもり居ゐて光明ひかりを知しらず 17 彼かれらには晨あしたは死しの蔭かげのごとし 是これ死しの蔭かげの怖おそろしきを知しればなり

18 彼かれは水みづの面おもてに疾とくながるる物ものの如ごとし その產業さんげふは世よの中なかに詛のろはる その身み重かさねて葡萄圃ぶだうばたけの路みちに向むかはず 19 亢旱ひでりおよび炎熱あつさは雪󠄃ゆき水みづを直たゞちに乾涸ほしからす 陰府よみが罪つみを犯をかせし者ものにおけるも亦またかくのごとし 20 これを宿やどせし腹はらこれを忘󠄃わすれ 蛆うじこれを好このみて食󠄃くらふ 彼かれは最早もはや世よにおぼえらるること無なく その惡あくは樹きを折をるるが如ごとくに折をる 21 是これすなはち孕はらまず產うまざりし婦󠄃人をんなをなやまし 寡婦󠄃やもめを憐あはれまざる者ものなり 22 神かみはその權能ちからをもて强つよき人々ひと〴〵を保存ながらへさせたまふ 彼かれらは生命いのちあらじと思おもふ時ときにも復また興おこる 23 神かみかれらに安泰あんたいを賜たまへば彼かれらは安やすらかなり 而しかしてその目めをもて彼かれらの道󠄃みちを見みそなはしたまふ 24 かれらは旺盛󠄃さかんになり暫時しばしが間あひだに無なくなり卑ひくくなりて一切すべての人ひとのごとくに沒ぼつし麥むぎの穗ほのごとくに斷きらる 25 すでに是かくのごとくなれば誰たれか我われの謬󠄃あやまれるを示しめしてわが言語ことばを空󠄃むなしくすることを得えん
 941㌻ 

第25章

1 時ときにシユヒ人びとビルダデこたへて曰いはく 2 神かみは大權たいけんを握にぎりたまふ者もの 畏おそるべき者ものにましまし 高たかき處ところに平󠄃和へいわを施ほどこしたまふ 3 その軍旅󠄃ぐんりよ數󠄄かぞふることを得えんや 其その光明ひかりなに物ものをか照てらさざらん 4 然されば誰たれか神かみの前󠄃まへに正義ただしかるべき 婦󠄃人をんなの產うみし者ものいかでか淸きよかるべき 5 視みよ月󠄃つきも輝かがやかず 星ほしも其その目めには淸明きよらかならず 6 いはんや蛆うじのごとき人ひと 蟲むしのごとき人ひとの子こをや

第26章

1 ヨブこたへて曰いはく 2 なんぢ能力ちからなき者ものを如何いかに助たすけしや 氣力きりよくなきものを如何いかに救すくひしや 3 智慧󠄄ちゑなき者ものを如何いかに誨をしへしや 頴悟さとりの道󠄃みちを如何いかに多おほく示しめししや 4 なんぢ誰たれにむかひて言語ことばを出いだししや なんぢより出いでしは誰たが靈れいなるや 5 陰靈いんれい水みづまたその中なかに居をる者ものの下したに慄ふるふ 6 かれの御前󠄃みまへには陰府よみも顯露あらはなり 滅亡ほろびの坑あなも蔽おほひ匿かくす所󠄃ところなし 7 彼かれは北きたの天てんを虛空󠄃おほぞらに張はり 地ちを物ものなき所󠄃ところに懸かけたまふ 8 水みづを濃雲こきくもの中なかに包󠄃つゝみたまふてその下したの雲くも裂さけず 9 御寳座みくらゐの面おもてを隱かくして雲くもをその上うへに展のべ 10 水みづの面おもてに界さかひを設まうけて光ひかりと暗󠄃くらきとに限かぎりを立たてたまふ 11 かれ叱咤いましめたまへば天てんの柱󠄃はしら震ふるひかつ怖おそる 12 その權能ちからをもて海うみを靜しづめ その智慧󠄄ちゑをもてラハブを擊碎うちくだき 13 その氣嘘いぶきをもて天てんを輝かがやかせ 其その手てをもて逃󠄄にぐる蛇へびを衝つきとほしたまふ 14 視みよ是等これらはただその御工作みわざの端はしなるのみ 我われらが聞きくところの者ものは如何いかにも微細かすかなる耳語ささやきならずや 然されどその權能ちからの雷轟とどろきに至いたりては誰たれかこれを曉さとらんや〘728㌻〙

第27章

1 ヨブまた語ことばを繼つぎていはく 2 われに義たゞしき審判󠄄さばきを施ほどこしたまはざる神かみ わが心魂たましひをなやまし給たまふ全󠄃能者ぜんのうしや此これ神かみは活いく 3 (わが生命いのちなほ全󠄃まつたくわれの衷うちにあり 神かみの氣息いきなほわが鼻はなにあり) 4 わが口くちは惡あくを言いはず わが舌したは謊󠄃言いつはりを語かたらじ 5 我われ決きはめて汝等なんぢらを是よしとせじ 我われに死しぬるまで我わが罪つみなきを言いふことを息やめじ 6 われ堅かたくわが正義ただしきを持たもちて之これを棄すてじ 我われは今いままで一日にちも心こゝろに責せめられし事ことなし 7 我われに敵てきする者ものは惡あしき者ものと成󠄃なり我われを攻せむる者ものは義ただしからざる者ものと成󠄃なるべし
 942㌻ 
8 邪󠄅曲よこしまなる者ものもし神かみに絕たゝれその魂神たましひを脱ぬきとらるるに於おいては何なにの望󠄇のぞみかあらん 9 かれ艱難なやみに罹かゝる時ときに神かみその呼號よばはりを聽きゝいれたまはんや 10 かれ全󠄃能者ぜんのうしやを喜よろこばんや 常つねに神かみを龥よばんや 11 われ神かみの御手みてを汝等なんぢらに敎をしへん 全󠄃能者ぜんのうしやの道󠄃みちを汝等なんぢらに隱かくさじ 12 視みよ汝等なんぢらもみな自みづからこれを觀みたり 然しかるに何なんぞ斯かく愚蒙おろかをきはむるや 13 惡あしき人ひとの神かみに得うる分󠄃ぶん 强暴きやうばうの人ひとの全󠄃能者ぜんのうしやより受うくる業げふは是これなり 14 その子等こども蕃ふゆれば劍つるぎに殺ころさる その子孫しそんは食󠄃物くひものに飽󠄄あかず 15 その遺󠄃のこれる者ものは疫病やくびやうに斃たふれて埋うづめられ その妻つま等らは哀哭なげきをなさず 16 かれ銀ぎんを積つむこと塵ちりのごとく衣服󠄃ころもを備そなふること土つちのごとくなるとも 17 その備そなふる者ものは義ただしき人ひとこれを着きん またその銀ぎんは無辜者つみなきものこれを分󠄃わかち取とらん 18 その建󠄄たつる家いへは蟲むしの巢すのごとく また番人ばんにんの造󠄃つくる茅家こやのごとし 19 彼かれは富とめる身みにて寢臥いねふし重かさねて興おくること無なし また目めを開ひらけば即すなはちその身みきえ亡うす 20 懼おそろしき事こと大水おほみづのごとく彼かれに追󠄃及おひしき 夜よるの暴風あらしかれを奪うばひ去さる 21 東風ひがしかぜかれを颺あげて去さり 彼かれをその處ところより吹ふきはらふ 22 神かみかれを射󠄂いて恤あはれまず 彼かれその手てより逃󠄄のがれんともがく 23 人ひとかれに對むかひて手てを鳴ならし 嘲󠄂あざけりわらひてその處ところをいでゆかしむ

第28章

1 白銀しろがね掘ほりいだす坑あなあり 煉ねるところの黃金こがねは出處いづるところあり 2 鐡くろがねは土つちより取とり 銅あかがねは石いしより鎔とかして獲うるなり 3 人ひとすなはち黑暗󠄃くらやみを破やぶり極はてより極はてまで尋󠄃たづね窮󠄃きはめて黑暗󠄃くらやみおよび死蔭しかげの石いしを求もとむ 4 その穴󠄄あなを穿󠄂うがつこと深ふかくして上うへに住󠄃すむ人ひとと遠󠄄とほく相あひ離はなれ その上うへを步あゆむ者ものまつたく之これを覺おぼえず 是かくのごとく身みを縋下つりさげ 遙はるかに人ひとと隔󠄃へだたりて空󠄃くうに懸かゝる 5 地ちその上うへは食󠄃物くひものを出いだし 其その下したは火ひに覆󠄄くつがへさるるがごとく覆󠄄くつがへる 6 その石いしの中なかには碧みどりの玉たまのある處ところあり 黃金こがねの沙すなまたその內うちにあり 7 その逕みちは鷙鳥あらきとりもこれを知しらず 鷹たかの目めもこれを看みず 8 鷙あらき獸けものも未いまだこれを踐ふまず 猛たけき獅子しゝも未いまだこれを通󠄃とほらず 9 人ひと堅かたき磐いはに手てを加くはへまた山やまを根ねより倒たふし〘729㌻〙 10 岩いはに河かはを掘ほり各種もろ〳〵の貴たふとき物ものを目めに見みとめ
 943㌻ 
11 水路みづみちを塞ふさぎて漏もらざらしめ隱かくれたる寳物たからものを光明あかるみに取とりいだすなり 12 然さりながら智慧󠄄ちゑは何處いづこよりか覓もとめ得えん 明哲さとりの在ある所󠄃ところは何處いづこぞや 13 人ひとその價あたひを知しらず人ひとのすめる地ちに獲うべからず 14 淵ふちは言いふ我われの內うちに在あらずと 海うみは言いふ我われと偕ともならずと 15 精金せいきんも之これに換かふるに足たらず 銀ぎんも秤はかりてその價あたひとなすを得えず 16 オフルの金きんにてもその價あたひを量はかるべからず 貴たふとき靑玉あをだまも碧玉みどりだまもまた然しかり 17 黃金こがねも玻璃はりもこれに並ならぶ能あたはず 精金せいきんの器皿うつはものも之これに換かふるに足たらず 18 珊󠄄瑚さんごも水晶すゐしやうも論いふにたらず 智慧󠄄ちゑを得うるは眞󠄃珠しんじゆを得うるに勝󠄃まさる 19 エテオビアより出いづる黃玉きのたまもこれに並ならぶあたはず 純金じゆんきんをもてするともその價あたひを量はかるべからず 20 然されば智慧󠄄ちゑは何處いづこより來きたるや 明哲さとりの在ある所󠄃ところは何處いづこぞや 21 是これは一切すべての生物いきものの目めに隱かくれ 天空󠄃そらの鳥とりにも見みえず 22 滅亡ほろびも死しも言いふ 我等われらはその風聲うはさを耳みゝに聞きゝし而已のみ

23 神かみその道󠄃みちを曉さとり給たまふ 彼かれその所󠄃ところを知しりたまふ 24 そは彼かれは地ちの極はてまでも觀みそなはし天あまが下したを看みきはめたまへばなり 25 風かぜにその重量おもさを與あたへ 水みづを度はかりてその量りやうを定さだめたまひし時とき 26 雨あめのために法のりを立たて 雷霆いかづちの光ひかりのために途󠄃みちを設まうけたまひし時とき 27 智慧󠄄ちゑを見みて之これを顯あらはし之これを立たて試こゝろみたまへり 28 また人ひとに言いひたまはく視みよ主しゆを畏おそるるは是これ智慧󠄄ちゑなり 惡あくを離はなるるは明哲さとりなり

第29章

1 ヨブまた語ことばをつぎて曰いはく 2 嗚呼あゝ過󠄃すぎにし年とし月󠄃つきのごとくならまほし 神かみの我われを護まもりたまへる日ひのごとくならまほし 3 かの時ときには彼かれの燈火ともしびわが首かしらの上うへに輝かがやき彼かれの光明ひかりによりて我われ黑暗󠄃くらやみを步あゆめり 4 わが壯さかんなりし日ひのごとくならまほし 彼時かのときには神かみの恩惠めぐみわが幕屋まくやの上うへにありき 5 かの時ときには全󠄃能者ぜんのうしやなほ我われとともに在いまし わが子女こどもわれの周󠄃圍󠄃まはりにありき 6 乳󠄃ちゝながれてわが足あし跡あとを洗あらひ 我わが傍かたはらなる磐いは油あぶらを灌そゝぎいだせり 7 かの時ときには我われいでて邑まちの門もんに上のぼりゆき わが座ざを街衢ちまたに設まうけたり 8 少わかき者ものは我われを見みて隱かくれ 老おいたる者ものは起󠄃おきあがりて立たち
 944㌻ 
9 牧伯つかさたる者ものも言談ものいはずしてその口くちに手てを當あて 10 貴たふとき者ものも聲こゑををさめてその舌したを上齶󠄂うはあごに貼つけたりき 11 我わが事ことを耳みゝに聞きける者ものは我われを幸福さいはひなりと呼よび 我われを目めに見みたる者ものはわがために證據あかしをなしぬ 12 是こは我われ助力たすけを求もとむる貧󠄃まづしき者ものを拯すくひ 孤子みなしごおよび助たすくる人ひとなき者ものを拯すくひたればなり 13 亡ほろびんとせし者ものわれを祝しゆくせり 我われまた寡婦󠄃やもめの心こゝろをして喜よろこび歌うたはしめたり 14 われ正義ただしきを衣きまた正義ただしきの衣きる所󠄃ところとなれり 我わが公󠄃義こうぎは袍うはぎのごとく冠冕󠄅かんむりのごとし 15 われは盲目めしひの目めとなり跛者あしなへの足あしとなり〘730㌻〙 16 貧󠄃まづしき者ものの父󠄃ちゝとなり知しらざる者ものの訴訟󠄃うつたへの由よしを究きはめ 17 惡あしき者ものの牙󠄂きばを折をり その齒はの間あひだより獲え物ものを取とりいだせり 18 我われすなはち言いひけらく 我われはわが巢すに死しなん 我わが日ひは砂すなの如ごとく多おほからん 19 わが根ねは水みづの邊󠄎ほとりに蔓はびこり 露つゆわが枝えだに終󠄃夜よもすがらおかん 20 わが榮光さかえはわが身みに新あらたなるべくわが弓ゆみはわが手てに何時いつも强つよからんと 21 人々ひと〴〵われに聽きき默もくして我わが敎をしへを俟まち 22 わが言いひし後のちは彼等かれら言ことばを出いださず 我わが説とくところは彼等かれらに甘露つゆのごとく 23 かれらは我われを望󠄇のぞみ待まつこと雨あめのごとく 口くちを開ひらきて仰あふぐこと春はるの雨あめのごとくなりき 24 われ彼等かれらにむかひて笑わらふとも彼等かれらは敢あへて眞󠄃實まこととおもはず我わが面かほの光ひかりを彼等かれらは除のぞくことをせざりき 25 われは彼等かれらのために道󠄃みちを擇えらび その首かしらとして座ざを占しめ 軍ぐん中ちうの王わうのごとくして居をり また哀哭者なげくものを慰なぐさむる人ひとのごとくなりき

第30章

1 然しかるに今いまは我われよりも年少としわかき者等ものどもわれを笑わらふ 彼等かれらの父󠄃ちゝは我わが賤いやしめて群むれの犬いぬと並ならべ置おくことをもせざりし者ものなり 2 またかれらの手ての力ちからもわれに何なにの用ようをかなさん 彼かれらは其その氣力きりよくすでに衰󠄄おとろへたる者ものなり 3 かれらは缺乏とぼしきと饑󠄃うゑとによりて痩やせおとろへ 荒あれかつ廢すたれたる暗󠄃くらき野のにて乾かわける地ちを咬かむ 4 すなはち灌木しばの中なかにて藜あかざを摘つみ苕れだまの根ねを食󠄃物くひものとなす 5 彼かれらは人ひとの中なかより逐󠄃おひいださる 盜賊󠄄ぬすびとを追󠄃おふがごとくに人ひとかれらを追󠄃おふて呼よばはる 6 彼等かれらは懼おそろしき谷たにに住󠄃すみ 土坑つちあなおよび磐穴󠄄いはあなに居をり 7 灌木しばの中なかに嘶いななき 荊棘いばらの下したに偃󠄂ふす 8 彼かれらは愚蠢おろかなる者ものの子こ 卑いやしむべき者ものの子こにして國くにより擊うちいださる
 945㌻ 
9 しかるに今いまは我われかれらの歌謠うたに成󠄃なり 彼かれらの嘲󠄂哢ひきごととなれり 10 かれら我われを厭いとふて遠󠄄とほく我われを離はなれ またわが面かほに唾つばきすることを辭いなまず 11 神かみわが綱つなを解ときて我われをなやましたまへば彼等かれらもわが前󠄃まへにその韁たづなを縱はなせり 12 この輩ともがらわが右みぎに起󠄃たちあがり わが足あしを推おしのけ我われにむかひて滅亡ほろびの路みちを築きづく 13 彼かれらは自みづから便󠄃たよりなき者ものなれども尙なほわが逕みちを毀こぼち わが滅亡ほろびを促うながす 14 かれらは石垣いしがきの大おほいなる崩󠄃口くづれくちより入いるがごとくに進󠄃すゝみ來きたり 破壞くづれの中なかにてわが上うへに乘のりかかり 15 懼おそろしき事ことわが身みに臨のぞみ 風かぜのごとくに我わが尊󠄅榮ほまれを吹ふきはらふ わが福祿さいはひは雲くものごとくに消󠄃失きえうす 16 今いまはわが心こゝろわれの衷うちに鎔とけて流ながれ 患難なやみの日ひかたく我われを執とらふ 17 夜よにいれば我わが骨ほね刺さゝれて身みを離はなる わが身みを噬かむ者ものつひに休やすむこと無なし 18 わが疾病やまひの大おほいなる能ちからによりてわが衣服󠄃ころもは醜みにくき樣さまに變かはり 裏衣したぎの襟えりの如ごとくに我われ身みに固かたく附つく 19 神かみわれを泥どろの中なかに投なげこみたまひて我われは塵灰󠄃ちりはひに等ひとしくなれり〘731㌻〙 20 われ汝なんぢにむかひて呼よばはるに汝なんぢ答こたへたまはず 我われ立たちをるに 汝なんぢ只たゞわれをながめ居ゐたまふ 21 なんぢは我われにむかひて無情󠄃つれなくなりたまひ 御手みての能力ちからをもて我われを攻擊せめうちたまふ 22 なんぢ我われを擧あげ風かぜの上うへに乘のりて負󠄅去おひさらしめ 大風おほかぜの音󠄃おととともに消󠄃亡きえうせしめたまふ 23 われ知しる汝なんぢはわれを死しに歸かへらしめ一切すべての生物いきものの終󠄃つひに集あつまる家いへに歸かへらしめたまはん 24 かれは必かならず荒垤あれつかにむかひて手てを舒のべたまふこと有󠄃あらじ 假令たとひ人ひと滅亡ほろびに陷おちいるとも是等これらの事ことのために號呼さけぶことをせん 25 苦くるしみて日ひを送󠄃おくる者もののために我われ哭なかざりしや 貧󠄃まづしき者もののために我わが心こゝろうれへざりしや 26 われ吉事よきことを望󠄇のぞみしに凶事あしきこときたり 光明ひかりを待まちしに黑暗󠄃くらやみきたれり 27 わが膓はらわた沸わきかへりて安やすからず 患難なやみの日ひ我われに追󠄃及おひしきぬ 28 われは日ひの光ひかりを蒙かうむらずして哀かなしみつつ步あるき 公󠄃會こうくわいの中なかに立たちて助たすけを呼よびもとむ 29 われは山やま犬いぬの兄弟きやうだいとなり 駝鳥だてうの友ともとなれり 30 わが皮かはは黑くろくなりて剝はげ落おち わが骨ほねは熱あつさによりて焚やけ 31 わが琴ことは哀かなしみの音󠄃ねとなり わが笛ふえは哭なげきの聲ねとなれり
 946㌻ 

第31章

1 我われわが目めと約やくを立たてたり 何なんぞ小艾をとめを慕したはんや 2 然しかせば上うへより神かみの降󠄄くだし給たまふ分󠄃ぶんは如何いかなるべきぞ 高たかき處ところより全󠄃能者ぜんのうしやの與あたへ給たまふ業げふは如何いかなるべきぞ 3 惡あしき人ひとには滅亡ほろびきたらざらんや 善よからぬ事ことを爲なす者ものには常つねならぬ災禍わざはひあらざらんや 4 彼かれわが道󠄃みちを見みそなはし わが步履あゆみをことごとく數󠄄かぞへたまはざらんや 5 我われ虛誕󠄅うそとつれだちて步あゆみし事ことありや わが足あし虛僞いつはりに奔從はせしたがひし事ことありや 6 請󠄃こふ公󠄃平󠄃ただしき權衡はかりをもて我われを稱󠄄はかれ 然さらば神かみわれの正たゞしきを知しりたまはん 7 わが步履あゆみもし道󠄃みちを離はなれ わが心こゝろもしわが目めに隨したがひて步あゆみ わが手てにもし汚けがれのつきてあらば 8 我わが播まきたるを人ひと食󠄃くらふも善よし わが產物さんぶつを根ねより拔ぬかるるも善よし 9 われもし婦󠄃人をんなのために心こゝろまよへる事ことあるか 又󠄂または我われもしわが隣となりの門かどにありて伺うかがひし事ことあらば 10 わが妻つまほかの人ひとのために臼うす磨󠄃ひき ほかの人々ひと〴〵かれの上うへに寢いぬるも善よし 11 其そは是これは重おもき罪つみにして裁判󠄄人さばきびとに罰ばつせらるべき惡事あくじなればなり 12 是これはすなはち滅亡ほろびにまでも燬やきいたる火ひにしてわが一切すべての產さんをことごとく絕たやさん 13 わが僕しもべあるひは婢しもめの我われと辯爭いひあらそひし時ときに我われもし之これが權理けんりを輕かろんぜし事ことあらば 14 神かみの起󠄃たちあがりたまふ時ときには如何いかにせんや 神かみの臨のぞみたまふ時ときには何なんと答こたへまつらんや 15 われを胎內たいないに造󠄃つくりし者ものまた彼かれをも造󠄃つくりたまひしならずや われらを腹はらの內うちに形かたち造󠄃づくりたまひし者ものは唯一ただひとつの者ものならずや 16 我われもし貧󠄃まづしき者ものにその願ねがふところを獲えしめず 寡婦󠄃やもめをしてその目めおとろへしめし事ことあるか〘732㌻〙 17 または我われ獨ひとりみづから食󠄃物くひものを啖くらひて孤子みなしごにこれを啖くらはしめざりしこと有󠄃あるか 18 (却かへつて彼かれらは我わが若わかき時ときより我われに育そだてられしこと父󠄃ちゝにおけるが如ごとし 我われは胎內たいないを出いでてより以來このかた寡やもめを導󠄃みちびく事ことをせり) 19 われ衣服󠄃ころもなくして死しなんとする者ものあるひは身みを覆󠄄おほふ物ものなくして居をる人ひとを見みし時ときに 20 その腰󠄃こしもし我われを祝しゆくせず また彼かれもしわが羊ひつじの毛けにて溫あたたまらざりし事ことあるか 21 われを助たすくる者ものの門もんにをるを見みて我われみなしごに向むかひて手てを上あげし事ことあるか
 947㌻ 
22 然しかありしならば肩󠄃骨かたぼねよりしてわが肩󠄃かたおち骨ほねとはなれてわが腕うで折をれよ 23 神かみより出いづる災禍わざはひは我われこれを懼おそる その威󠄂光ゐくわうの前󠄃まへには我われ 能力ちからなし 24 我われもし金きんをわが望󠄇のぞみとなし 精金せいきんにむかひて汝なんぢわが所󠄃賴たのみなりと言いひしこと有󠄃あるか 25 我われもしわが富とみの大おほいなるとわが手てに物ものを多おほく獲えたることを喜よろこびしことあるか 26 われ日ひの輝かがやくを見みまたは月󠄃つきの輝てりわたりて步あゆむを見みし時とき 27 心こゝろ竊ひそかにまよひて手てを口くちに接つけしことあるか 28 是これもまた裁判󠄄人さばきびとに罪つみせらるべき惡事あくじなり 我われもし斯かくなせし事ことあらば上うへなる神かみに背そむきしなり 29 我われもし我われを惡にくむ者ものの滅亡ほろぶるを喜よろこび 又󠄂または其その災禍わざはひに罹かゝるによりて自みづから誇ほこりし事ことあるか 30 (我われは之これが生命いのちを呪のろひ索もとめて我われ口くちに罪つみを犯をかさしめし如ごとき事ことあらず) 31 わが天てん幕まくの人ひとは言いはずや彼かれの肉󠄁にくに飽󠄄あかざる者ものいづこにか在あらんと 32 旅󠄃人たびゞとは外そとに宿やどらず わが門かどを我われは街衢ちまたにむけて啓󠄃ひらけり 33 我われもしアダムのごとくわが罪つみを蔽おほひ わが惡事あくじを胸むねに隱かくせしことあるか 34 すなはち大衆たいしうを懼おそれ宗族そうぞくの輕蔑かろしめに怖おぢて口くちを閉とぢ門かどを出いでざりしごとき事ことあるか 35 嗚呼あゝわれの言いふところを聽きゝわくる者ものあらまほし(我わが花押かきはんここに在あり 願ねがはくは全󠄃能者ぜんのうしやわれに答こたへたまへ)我われを訴うつたふる者ものみづから訴訟󠄃狀うつたへぶみを書かけ 36 われ必かならず之これを肩󠄃かたに負󠄅おひ冠冕󠄅かんむりのごとくこれを首かうべに結むすばん 37 我われわが步履あゆみの數󠄄かずを彼かれに述󠄃のべん 君王きみたる者もののごとくして彼かれに近󠄃ちかづかん 38 わが田圃たはた號呼よばはりて我われを攻せめ その阡陌うね〳〵ことごとく泣なきさけぶあるか 39 若もしわれ金かねを出いださずしてその產物さんぶつを食󠄃くらひ またはその所󠄃有󠄃主もちぬしをして生命いのちを失うしなはしめし事ことあらば 40 小麥こむぎの代かはりに蒺藜あざみ生はえいで 大おほ麥むぎのかはりに雜草はぐさおひ出いづるとも善よし ヨブの詞ことばをはりぬ

第32章

1 ヨブみづから見みて己おのれの正義ただしとするに因よりて此この三人にんの者もの之これに答こたふる事ことを止やむ 2 時ときにラムの族やからブジ人びとバラケルの子こエリフ怒いかりを發おこせり ヨブ神かみよりも己おのれを正たゞしとするに因よりて彼かれヨブにむかひて怒いかりを發おこせり〘733㌻〙 3 またヨブの三人にんの友とも答こたふるに詞ことばなくして猶󠄅なほヨブを罪つみありとせしによりて彼かれらにむかひて怒いかりを發おこせり
 948㌻ 
4 エリフはヨブに言ものいふことをひかへて俟まちをりぬ 是こは自己おのれよりも彼等かれら年とし老おいたればなり 5 茲こゝにエリフこの三人にんの口くちに答こたふる詞ことばの有󠄃あらざるを見みて怒いかりを發おこせり 6 ブジ人びとバラケルの子こエリフすなはち答こたへて曰いはく 我われは年少としわかく汝等なんぢらは年とし老おいたり是こゝをもて我われはばかりて我わが意見おもひをなんぢらに陳のぶることを敢あへてせざりき 7 我われ意おもへらく日ひを重かさねたる者もの宜よろしく言ことばを出いだすべし 年としを積つみたる者もの宜よろしく智慧󠄄ちゑを敎をしふべしと 8 但たゞし人ひとの衷うちには靈れいあり 全󠄃能者ぜんのうしやの氣息いき人ひとに聰明さとりを與あたふ 9 大おほいなる人ひとすべて智慧󠄄ちゑあるに非あらず 老おいたる者ものすべて道󠄃理ことわりに明白あきらかなるに非あらず 10 然されば我われ言いふ 我われに聽きけ 我われもわが意見おもひを陳のべん 11 視みよ我われは汝なんぢらの言語ことばを俟まち なんぢらの辯論あげつらひを聽きき なんぢらが言いふべき言語ことばを尋󠄃たづね盡つくすを待まてり 12 われ細こまかに汝なんぢらに聽きゝしが汝なんぢらの中うちにヨブを駁折いひふする者もの一人ひとりも無なく また彼かれの言詞ことばに答こたふる者ものも無なし 13 おそらくは汝等なんぢらいはん 我われら智慧󠄄ちゑを見み得えたり 彼かれに勝󠄃かつ者ものは唯たゞ神かみのみ 人ひとは能あたはずと 14 彼かれはその言語ことばを我われに向むけて發おこさざりき 我われはまた汝なんぢらの言いふ所󠄃ところをもて彼かれに答こたへじ 15 彼かれらは愕󠄂おどろきて復また答こたふる所󠄃ところなく 言語ことばかれらの衷うちに浮󠄃うかばず 16 彼等かれらものいはず立たちとゞまりて重かさねて答こたへざればとて我われあに俟まちをるべけんや 17 我われも自みづからわが分󠄃ぶんを答こたへわが意見おもひを吐露あらはさん 18 われには言ことば滿みち わが衷うちの心こゝろしきりに迫󠄃せまる 19 わが腹はらは口くちを啓󠄃ひらかざる酒さけのごとし 新あたらしき皮嚢かはぶくろのごとく今いまにも裂さけんとす 20 われ説ときいだして胸むねを安やすんぜんとす われ口くちを啓󠄃ひらきて答こたへん 21 かならず我われは人ひとに偏󠄃かたよらず 人ひとに諂へつらはじ 22 我われは諂へつらふことを知しらず もし諂へつらはば我われの造󠄃化主つくりぬしただちに我われを絕たちたまふべし

第33章

1 然さらばヨブよ請󠄃こふ我わが言いふ事ことを聽きけ わが一切すべての言語ことばに耳みゝを傾かたむけよ 2 視みよ我われ口くちを啓󠄃ひらき 舌したを口くちの中なかに動うごかす 3 わが言いふ所󠄃ところは正義ただしき心こゝろより出いづ わが唇くちびるあきらかにその知識ちしきを陳のべん 4 神かみの靈れいわれを造󠄃つくり 全󠄃能者ぜんのうしやの氣息いきわれを活いかしむ 5 汝なんぢもし能よくせば我われに答こたへよ わが前󠄃まへに言ことばをいひつらねて立たて 6 我われも汝なんぢとおなじく神かみの者ものなり 我われもまた土つちより取とりてつくられしなり
 949㌻ 
7 わが威󠄂嚴ゐげんはなんぢを懼おそれしめず わが勢いきほひはなんぢを壓󠄂あつせず 8 汝なんぢわが聽きくところにて言談ものいへり 我われなんぢの言語ことばの聲こゑを聞きけり云いはく 9 われは潔󠄄淨いさぎよくして愆とがなし 我われは辜つみなく惡あしき事ことわが身みにあらず 10 視みよ彼かれわれを攻せむる釁𨻶ひまを尋󠄃たづね われを己おのれの敵あたと算かぞへ〘734㌻〙 11 わが脚あしを桎かせに夾はめわが一切すべての擧動おこなひに目めを着つけたまふと 12 視みよ我われなんぢに答こたへん なんぢ此事このことにおいて正義ただしからず 神かみは人ひとよりも大おほいなる者ものにいませり 13 彼かれその凡すべて行おこなふところの理由ことわりを示しめしたまはずとて汝なんぢかれにむかひて辯爭いひあらそふは何なんぞや 14 まことに神かみは一度ひとたび二度ふたゝびと吿示つげしめしたまふなれど人ひとこれを曉さとらざるなり 15 人ひと熟睡うまいする時ときまたは床とこに睡ねむる時ときに夢ゆめあるひは夜よの間まの異象まぼろしの中うちにて 16 かれ人ひとの耳みゝをひらき その敎をしふるところを印いんして堅かたうし 17 斯かくして人ひとにその惡あしき業わざを離はなれしめ 傲慢たかぶりを人ひとの中なかより除のぞき 18 人ひとの魂靈たましひを護まもりて墓はかに至いたらしめず 人ひとの生命いのちを護まもりて劍つるぎにほろびざらしめたまふ 19 人ひと床とこにありて疼󠄃痛いたみに攻せめられ その骨ほねの中なかに絕たえず戰鬪たたかひのあるあり 20 その氣こころ食󠄃物くひものを厭いとひ その魂靈たましひうまき物ものをも嫌󠄃きらふ 21 その肉󠄁にくは痩やせおちて見みえず その骨ほねは見みえざりし者ものまでも顯露あらはになり 22 その魂靈たましひは墓はかに近󠄃ちかより その生命いのちは滅ほろぼす者ものに近󠄃ちかづく 23 しかる時ときにもし彼かれとともに一箇ひとりの使󠄃者つかひあり 千せんの中うちの一箇ひとりにして中保ちうほうとなり 正たゞしき道󠄃みちを人ひとに示しめさば 24 神かみかれを憫あはれみて言いひ給たまはん彼かれを救すくひて墓はかにくだること無なからしめよ 我われすでに收贖あがなひの物ものを得えたりと 25 その肉󠄁にくは小兒こどもの肉󠄁にくよりも瑞々みづ〳〵しくなり その若わかき時ときの形狀ありさまに歸かへらん 26 かれ若もし神かみに禱いのらば神かみかれを顧󠄃かへりみ 彼かれをしてその御面みかほを喜よろこび見みることを得えせしめたまはん 神かみは人ひとの正義ただしきに報むくいをなしたまふべし 27 かれ人ひとの前󠄃まへに歌うたひて言いふ 我われは罪つみを犯をかし正たゞしきを抂まげたり 然されど報むくいを蒙かうむらず 28 神かみわが魂靈たましひを贖あがなひて墓はかに下くだらしめず わが生命いのち光明ひかりを見みん 29 そもそも神かみは是等これらのもろもろの事ことをしばしば人ひとにおこなひ 30 その魂靈たましひを墓はかより牽󠄁ひきかへし生命いのちの光明ひかりをもて彼かれを照てらしたまふ
 950㌻ 
31 ヨブよ耳みゝを傾かたむけて我われに聽きけ 請󠄃こふ默もくせよ 我われかたらん 32 なんぢもし言いふべきことあらば我われにこたへよ 請󠄃こふ語かたれ 我われなんぢを義ただしとせんと慾ほつすればなり 33 もし無なくば我われに聽きけ 請󠄃こふ默もくせよ 我われなんぢに智慧󠄄ちゑを敎をしへん

第34章

1 エリフまた答こたへて曰いはく 2 なんぢら智慧󠄄ちゑある者ものよ我わが言ことばを聽きけ 知識ちしきある者ものよ我われに耳みゝを傾かたむけよ 3 口くちの食󠄃物くひものを味あじはふごとく耳みゝは言詞ことばを辨わきまふ 4 われら自みづから是非ぜひを究きはめ われらもろともに善惡ぜんあくを明あきらかにせん 5 それヨブは言いふ我われは義たゞし 神かみわれに正たゞしき審判󠄄さばきを施ほどこしたまはず 6 われは義たゞしかれども僞いつはる者ものとせらる 我われは愆とがなけれどもわが身みの矢創やきず愈󠄃いえがたしと 7 何人なにびとかヨブのごとくならん彼かれは罵言ののしりを水みづのごとくに飮のみ 8 惡あしき事ことを爲なす者等ものどもと交󠄄まじはり 惡人あくにんとともに步あゆむなり 9 すなはち彼かれいへらく 人ひとは神かみと親したしむとも身みに益えきなしと〘735㌻〙 10 然さればなんぢら心こゝろある人々ひと〴〵よ我われに聽きけ 神かみは惡あくを爲なすことを決きはめて無なく 全󠄃能者ぜんのうしやは不義ふぎを行おこなふこと決きはめて無なし 11 却かへつて人ひとの所󠄃爲しはざをその身みに報むくい 人ひとをしてその行爲おこなひにしたがひて獲うるところあらしめたまふ 12 かならず神かみは惡あしき事ことをなしたまはず全󠄃能者ぜんのうしやは審判󠄄さばきを抂まげたまはざるなり 13 たれかこの地ちを彼かれに委ゆだねし者ものあらん 誰たれか全󠄃ぜん世界せかいを定さだめし者ものあらん 14 神かみもしその心こゝろを己おのれにのみ用もちひ その靈れいと氣息いきとを己おのれに收回ひきもどしたまはば 15 もろもろの血肉󠄁けつにくことごとく亡ほろび人ひとも亦また塵ちりにかへるべし 16 なんぢもし曉さとることを得えば請󠄃こふ我われに聽きけわが言詞ことばの聲こゑに耳みゝを側そばだてよ 17 公󠄃義ただしきを惡にくむ者ものあに世よををさむるを得えんや なんぢあに至義いとただしき者ものを惡あししとすべけんや 18 王わうたる者ものにむかひて汝なんぢは邪󠄅曲よこしまなりと言いひ 牧伯つかさたる者ものにむかひて汝なんぢらは惡あししといふべけんや 19 まして君王きみたる者ものをも偏󠄃視かたよりみず貧󠄃まづしき者ものに超こえて富とめる者ものをかへりみるごとき事ことをせざる者ものにむかひてをや 斯かく爲したまふは彼等かれらみな同おなじくその御手みての作つくるところなればなり
 951㌻ 
20 彼かれらは瞬またたく時間ひまに死しに 民たみは夜よの間まに滅ほろびて消󠄃失きえうせ 力ちからある者ものも人ひと手でによらずして除のぞかる 21 それ神かみの目めは人ひとの道󠄃みちの上うへにあり 神かみは人ひとの一切すべての步履あゆみを見みそなはす 22 惡あくを行おこなふ者ものの身みを匿かくすべき黑暗󠄃くらやみも無なく死蔭しかげも无なし 23 神かみは人ひとをして審判󠄄さばきを受うけしむるまでに長ながくその人ひとを窺うかがふに及およばず 24 權勢ちからある者ものをも査しらぶることを須もちひずして打うちほろぼし他ほかの人々ひと〴〵を立たてて之これに替かへたまふ 25 かくの如ごとく彼かれらの所󠄃爲わざを知しり 夜よの間まに彼かれらを覆󠄄くつがへしたまへば彼かれらは乃やがて滅ほろぶ 26 人ひとの觀みるところにて彼等かれらを惡人あくにんのごとく擊うちたまふ 27 是こは彼かれら背そむきて之これに從したがはずその道󠄃みちを全󠄃まつたく顧󠄃かへりみざるに因よる 28 かれら是かくのごとくして遂󠄅つひに貧󠄃まづしき者ものの號呼さけびを彼かれの許もとに達󠄃いたらしめ患難者なやめるものの號呼さけびを彼かれに聽きかしむ 29 かれ平󠄃安へいあんを賜たまふ時ときには誰たれか惡あししと言いふことをえんや 彼かれ面かほをかくしたまふ時ときには誰たれかこれを見みるを得えんや 一國いつこくにおけるも一人いちにんにおけるも凡すべて同おなじ 30 かくのごとく邪󠄅曲よこしまなる者ものをして世よを治をさむること無なからしめ 民たみの機檻わなとなることなからしむ 31 人ひとは宜よろしく神かみに申まうすべし 我われは已すでに懲こらしめられたり再度ふたゝび惡あしき事ことを爲せじ 32 わが見みざる所󠄃ところは請󠄃こふ我われにをしへたまへ 我われもし惡あしき事ことを爲なしたるならば重かさねて之これをなさじと 33 かれ豈あになんぢの好このむごとくに應報むくいをなしたまはんや 然しかるに汝なんぢはこれを咎とがむ 然さらばなんぢ自みづから之これを選󠄄えらぶべし 我われは爲せじ 汝なんぢの知しるところを言いへ 34 心こゝろある人々ひと〴〵は我われに言いはん 我われに聽きくところの智慧󠄄ちゑある人々ひと〴〵は言いはん 35 ヨブの言いふ所󠄃ところは辨知わきまへなし その言詞ことばは明哲さとからずと〘736㌻〙 36 ねがはくはヨブ終󠄃をはりまで試こゝろみられんことを其そは惡あしき人ひとのごとくに應答こたへをなせばなり 37 まことに彼かれは自己おのれの罪つみに愆とがを加くはへわれらの中間なかにありて手てを拍うちかつ言詞ことばを繁しげくして神かみに逆󠄃さからふ

第35章

1 エリフまた答こたへて曰いはく 2 なんぢは言いふ 我わが義たゞしきは神かみに愈󠄃まされりと なんぢ之これを正たゞしとおもふや
 952㌻ 
3 すなはち汝なんぢいへらく 是これは我われに何なにの益えきあらんや 罪つみを犯をかすに較󠄃くらぶれば何なにの愈󠄃まさるところか有󠄃あらんと 4 われ言詞ことばをもて汝なんぢおよびなんぢにそへる汝なんぢの友等ともらに答こたへん 5 天てんを仰あふぎて見みよ 汝なんぢの上うへなる高たかき空󠄃くうを望󠄇のぞめ 6 なんぢ罪つみを犯をかすとも神かみに何なにの害󠄅さはりか有󠄃あらん 愆とがを熾さかんにするとも神かみに何なにを爲なしえんや 7 汝なんぢ正義ただしかるとも神かみに何なにを與あたふるを得えんや 神かみなんぢの手てより何なにをか受うけたまはん 8 なんぢの惡あくは只たゞなんぢに同おなじき人ひとを損そんぜん而已のみ なんぢの善ぜんは只たゞ人ひとの子こを益えきせんのみ 9 暴虐󠄃しへたげの甚はなはだしきに因よりて叫さけび 權勢いきほひある者ものの腕うでに壓󠄂おされて呼よばはる人々ひと〴〵あり 10 然しかれども一人ひとりとして我われを造󠄃つくれる神かみは何處いづくにいますやといふ者ものなし 彼かれは人ひとをして夜よの中うちに歌うたを歌うたふに至いたらしめ 11 地ちの獸畜けものよりも善よくわれらを敎をしへ 空󠄃そらの鳥とりよりも我われらを智かしこからしめたまふ者ものなり 12 惡あしき者等ものどもの驕傲おごりたかぶるに因よりて斯かくのごとく人々ひと〴〵叫さけべども應こたふる者ものあらず 13 虛むなしき語ことばは神かみかならず之これを聽きゝたまはず 全󠄃能者ぜんのうしやこれを顧󠄃かへりみたまはじ 14 汝なんぢは我われかれを見みたてまつらずと言いふといへども審判󠄄さばきは神かみの前󠄃まへにあり この故ゆゑに汝なんぢ彼かれを待まつべきなり 15 今いまかれ震怒いかりをもて罰ばつすることを爲せず 罪愆つみとがを深ふかく心こゝろに留とめたまはざる(が如ごとくなる)に因よりて 16 ヨブ口くちを啓󠄃ひらきて虛むなしき事ことを述󠄃のべ無知むちの言語ことばを繁しげくす

第36章

1 エリフまた言詞ことばを繼つぎて曰いはく 2 暫しばらく我われに容ゆるせ我われなんぢに示しめすこと有󠄃あらん 尙なほ神かみのために言いふべき事ことあればなり 3 われ廣ひろくわが知識ちしきを取とり我われの造󠄃化主つくりぬしに正義ただしきを歸きせんとす 4 わが言語ことばは眞󠄃實まことに虛僞いつはりならず 知識ちしきの完全󠄃まつたき者ものなんぢの前󠄃まへにあり 5 視みよ神かみは權能ちからある者ものにましませども何なにをも藐視いやしめたまはず その了知さとりの能力ちからは大おほいなり 6 惡あしき者ものを生いかし存おかず 艱難者なやめるもののために審判󠄄さばきを行おこなひたまふ 7 義たゞしき者ものに目めを離はなさず 位くらゐにある王わう等たちとともに永遠󠄄とこしへに坐ざせしめて之これを貴たふとくしたまふ 8 もし彼かれら鏈索くさりに繋つながれ 艱難なやみの繩󠄂なはにかかる時ときは
 953㌻ 
9 彼かれらの所󠄃行おこなひと愆尤とがとを示しめしてその驕おごれるを知しらせ 10 彼かれらの耳みゝを開ひらきて敎をしへを容いれれしめ かつ惡あくを離はなれて歸かへれよと彼かれらに命めいじたまふ 11 もし彼かれら聽きゝしたがひて之これに事つかへなば繁昌さかえてその日ひを送󠄃おくり 樂たのしくその年としを渉わたらん 12 若もしかれら聽きゝしたがはずば刀劍つるぎにて亡ほろび 知識ちしきを得えずして死しなん〘737㌻〙 13 しかれども心こゝろの邪󠄅曲よこしまなる者等ものどもは忿怒いかりを蓄たくはへ 神かみに縛󠄃いましめらるるとも祈いのることを爲せず 14 かれらは年としわかくして死亡しにうせ 男娼なんしやうとその生命いのちをひとしうせん 15 神かみは艱難者なやめるものを艱難なやみによりて救すくひ 之これが耳みゝを虐󠄃遇󠄃しへたげによりて開ひらきたまふ 16 然されば神かみまた汝なんぢを狹せまきところより出いだして狹せまからぬ廣ひろき所󠄃ところに移うつしたまふあらん 而しかして汝なんぢの席せきに陳つらぬる物ものは凡すべて肥こえたる物ものならん 17 今いまは惡人あくにんの鞫罰さばきなんぢの身みに充みてり 審判󠄄さばきと公󠄃義こうぎとなんぢを執とらふ 18 なんぢ忿怒いかりに誘いざなはれて嘲󠄂笑あざけりに陷おちいらざるやう愼つゝしめよ 收贖あがなひの大おほいなるが爲ために自みづから誤󠄄あやまるなかれ 19 なんぢの號叫さけびなんぢを艱難なやみの中うちより出いださんや 如何いかに力ちからを盡つくすとも所󠄃益かひあらじ 20 世よの人ひとのその處ところより絕たゝる其その夜よを慕したふなかれ 21 愼つゝししみて惡あくに傾かたむくなかれ 汝なんぢは艱難なやみよりも寧むしろ之これを取とらんとせり 22 それ神かみはその權能ちからをもて大おほいなる事わざを爲なしたまふ 誰たれか能よく彼かれのごとくに敎誨をしへを埀たれんや 23 たれか彼かれのためにその道󠄃みちを定さだめし者ものあらんや 誰たれかなんぢは惡あしき事ことをなせりと言いふことを得えん 24 なんぢ神かみの御所󠄃爲みわざを讚歎ほめたたふることを忘󠄃わすれざれ これ世よの人ひとの歌うたひ崇あがむる所󠄃ところなり 25 人ひとみな之これを仰あふぎ觀みる 遠󠄄とほき方ところより人ひとこれを視みたてまつるなり 26 神かみは大おほいなる者ものにいまして我儕われらかれを知しりたてまつらず その御年みとしの數󠄄かずは計はかり知しるべからず 27 かれ水みづを細こまかにして引ひきあげたまへば霧きりの中なかに滴したたり出いでて雨あめとなるに 28 雲くもこれを降󠄄ふらせて人々ひと〴〵の上うへに沛然ゆたかに灌そゝぐなり 29 たれか能よく雲くもの舒展ひろがる所󠄃以ゆゑん またその幕屋まくやの響ひびく所󠄃以ゆゑんを了知さとらんや 30 視みよ彼かれその光明ひかりを自己おのれの周󠄃圍󠄃まはりに繞めぐらし また海うみの底そこをも蔽おほひたまひ
 954㌻ 
31 これらをもて民たみを鞫さばき また是等これらをもて食󠄃物くひものを豐饒ゆたかに賜たまひ 32 電光いなびかりをもてその兩手もろてを包󠄃つゝみ その電光いなびかりに命めいじて敵てきを擊うたしめたまふ 33 その鳴聲なりおとかれを顯あらはし 家畜けものすらも彼かれの來きますを知しらすなり

第37章

1 之これがためにわが心こゝろわななき その處ところを動うごき離はなる 2 神かみの聲こゑの響ひびきおよびその口くちより出いづる轟聲とどろきを善よく聽きけ 3 これを天あめが下したに放はなち またその電光いなびかりを地ちの極はてにまで至いたらせたまふ 4 その後のち聲こゑありて打うち響ひびき 彼かれ威󠄂光ゐくわうの聲こゑを放はなちて鳴なりわたりたまふ その御聲みこゑ聞きこえしむるに當あたりては電光いなびかりを押おさへおきたまはず 5 神かみ奇くすしくも御聲みこゑを放はなちて鳴なりわたり 我儕われらの知しらざる大おほいなる事わざを行おこなひたまふ 6 かれ雪󠄃ゆきにむかひて地ちに降󠄄ふれと命めいじたまふ 雨あめすなはちその權能ちからの大おほ雨あめにも亦またしかり 7 斯かくかれ一切すべての人ひとの手てを封ふうじたまふ 是これすべての人ひとにその御工作みわざを知しらしめんがためなり 8 また獸けものは穴󠄄あなにいりてその洞ほらに居をる 9 南方みなみの密室みつしつより暴風あらしきたり 北きたより寒󠄃氣さむさきたる〘738㌻〙 10 神かみの氣吹いぶきによりて氷こほりいできたり 水みづの寛はば狹せばくせらる 11 かれ水みづをもて雲くもに搭載つみのせまた電光ひかりの雲くもを遠󠄄とほく散ちらしたまふ 12 是これは神かみの導󠄃引みちびきによりて週󠄃めぐる 是こは彼かれの命めいずるところを盡こと〴〵く世界せかいの表面おもてに爲なさんがためなり 13 その之これを來きたらせたまふは或あるひは懲罰こらしめのため あるひはその地ちのため 或あるひは恩惠めぐみのためなり 14 ヨブよ是これを聽きけ 立たちて神かみの奇妙くすしき工作わざを考かんがへよ 15 神かみいかに是等これらに命めいを傳つたへその雲くもの光明ひかりをして輝かがやかせたまふか汝なんぢこれを知しるや 16 なんぢ雲くもの平󠄃衡つりあひ知識ちしきの全󠄃まつたき者ものの奇妙くすしき工作わざを知しるや 17 南みなみ風かぜによりて地ちの穩おだやかになる時ときなんぢの衣服󠄃ころもは熱あつくなるなり 18 なんぢ彼かれとともに彼かの堅かたくして鑄いたる鏡かがみのごとくなる蒼穹そらを張はることを能よくせんや 19 われらが彼かれに言いふべき事ことを我われらに敎をしへよ 我われらは暗󠄃昧くらくして言詞ことばを列つらぬること能あたはざるなり 20 われ語かたることありと彼かれに吿つぐべけんや 人ひとあに滅ほろぼさるることを望󠄇のぞまんや 21 人ひといまは雲霄そらに輝かがやく光明ひかりを見みること能あたはず 然されど風かぜきたりて之これを吹淸ふききよむ
 955㌻ 
22 北きたより黃金こがねいできたる 神かみには畏おそるべき威󠄂光ゐくわうあり 23 全󠄃能者ぜんのうしやはわれら測はかりきはむることを得えず 彼かれは能ちからおほいなる者ものにいまし審判󠄄さばきをも公󠄃義こうぎをも抂まげたまはざるなり 24 この故ゆゑに人々ひと〴〵かれを畏おそる 彼かれはみづから心こゝろに有󠄃智かしこしとする者ものをかへりみたまはざるなり

第38章

1 茲こゝにヱホバ大風おほかぜの中なかよりヨブに答こたへて宣のたまはく 2 無智むちの言詞ことばをもて道󠄃みちを暗󠄃くらからしむる此この者ものは誰たれぞや 3 なんぢ腰󠄃こしひきからげて丈󠄃夫をとこのごとくせよ 我われなんぢに問とはん 汝なんぢわれに答こたへよ 4 地ちの基もとゐを我わが置すゑたりし時ときなんぢは何處いづこにありしや 汝なんぢもし頴悟さとりあらば言いへ 5 なんぢ若もし知しらんには誰たれが度量どりやうを定さだめたりしや 誰たが準繩󠄂はかりなはを地ちの上うへに張はりたりしや 6 その基もとゐは何なにの上うへに奠󠄅おかれたりしや その隅石すみいしは誰たが置すゑたりしや 7 かの時ときには晨星あけのほしあひともに歌うたひ 神かみの子こ等たちみな歡よろこびて呼よばはりぬ 8 海うみの水みづながれ出いで 胎內たいないより涌わきいでし時とき誰たが戶とをもて之これを閉とぢこめたりしや 9 かの時とき我われ雲くもをもて之これが衣服󠄃ころもとなし 黑暗󠄃くらやみをもて之これが襁󠄃褓むつきとなし 10 これに我われ法度のりを定さだめ關くわんおよび門もんを設まうけて 11 曰いはく此こゝまでは來きたるべし此こゝを越こゆべからず 汝なんぢの高たか浪なみここに止とゞまるべしと 12 なんぢ生うまれし日ひより以來このかた朝󠄃あしたにむかひて命めいを下くだせし事ことありや また黎明よあけにその所󠄃ところを知しらしめ 13 これをして地ちの緣ふちを取とらへて惡あしき者ものをその上うへより振ふり落おとさしめたりしや 14 地ちは變かはりて土つちに印いんしたるごとくに成󠄃なり 諸もろ〳〵の物ものは美うるはしき衣服󠄃ころものごとくに顯あらはる 15 また惡人あくにんはその光明ひかりを奪うばはれ 高たかく擧あげたる手ては折をらる〘739㌻〙 16 なんぢ海うみの泉源みなもとにいたりしことありや 淵ふちの底そこを步あゆみしことありや 17 死しの門かどなんぢのために開ひらけたりしや 汝なんぢ死蔭しかげの門かどを見みたりしや 18 なんぢ地ちの廣ひろさを看みきはめしや 若もしこれを盡こと〴〵く知しらば言いへ 19 光明ひかりの在ある所󠄃ところに往󠄃ゆく路みちは孰いづれぞや 黑暗󠄃くらやみの在ある所󠄃ところは何處いづこぞや 20 なんぢ之これをその境さかひに導󠄃みちびき得うるや その家いへの路みちを知しりをるや 21 なんぢ之これを知しるならん汝なんぢはかの時ときすでに生うまれをり また汝なんぢの經へたる日ひの數󠄄かずも多おほければなり
 956㌻ 
22 なんぢ雪󠄃ゆきの庫くらにいりしや 雹へうの庫くらを見みしや 23 これ我わが艱難なやみの時ときにために蓄たくはへ 戰爭いくさおよび戰鬪たたかひの日ひのために蓄たくはへ置おくものなり 24 光明ひかりの發散ひろがる道󠄃みち 東風ひがしかぜの地ちに吹ふきわたる所󠄃ところの路みちは何處いづこぞや 25 誰たが大おほ雨あめを灌そゝぐ水路みづみちを開ひらき雷電いかづちの光ひかりの過󠄃すぐる道󠄃みちを開ひらき 26 人ひとなき地ちにも人ひとなき荒野あれのにも雨あめを降󠄄ふらし 27 荒あれかつ廢すたれたる處々ところどころを潤うるほし かつ若菜󠄄蔬わかくさを生出はえいでしむるや 28 雨あめに父󠄃ちゝありや 露あらの珠たまは誰たが生うめる者ものなるや 29 氷こほりは誰たが胎はらより出いづるや 空󠄃そらの霜しもは誰たが產うむところなるや 30 水みづかたまりて石いしのごとくに成󠄃なり 淵ふちの面おもてこほる 31 なんぢ昴宿ばうしゆくの鏈索くさりを結むすびうるや 參宿しんしゆくの繋繩󠄂つなぎを解ときうるや 32 なんぢ十二宮きうをその時ときにしたがひて引ひきいだし得うるや また北斗ほくととその子星こぼしを導󠄃みちびき得うるや 33 なんぢ天てんの常經のりを知しるや 天てんをして其その權力ちからを地ちに施ほどこさしむるや 34 なんぢ聲こゑを雲くもに擧あげ滂沛おほくの水みづをして汝なんぢを掩おほはしむるを得うるや 35 なんぢ閃電いなびかりを遣󠄃つかはして往󠄃ゆかしめ なんぢに答こたへて我儕われらは此こゝにありと言いはしめ得うるや 36 胸むねの中うちの智慧󠄄ちゑは誰たが與あたへし者ものぞ 心こゝろの內うちの聰明さとりは誰たが授さづけし者ものぞ 37 たれか能よく智慧󠄄ちゑをもて雲くもを數󠄄かぞへんや たれか能よく天てんの瓶かめを傾かたむけ 38 塵ちりをして一塊ひとつに流ながれあはしめ土塊つちくれをしてあひかたまらしめんや 39 なんぢ牝め獅子じしのために食󠄃物くひものを獵かるや また小獅子こじしの食󠄃氣しよくきを滿みたすや 40 その洞穴󠄄ほらあなに伏ふし 森の中なかに隱かくれ伺うかがふ時ときなんぢこの事ことを爲なしうるや 41 また鴉󠄄からすの子こ 神かみにむかひて呼よばはり 食󠄃物くひものなくして徘徊ゆきめぐる時とき 鴉󠄄からすに餌󠄉えを與あたふる者ものは誰たれぞや

第39章

1 なんぢ岩いは間まの山羊やぎが子こを產うむ時ときをしるや また麀󠄂鹿めじかの產さんに臨のぞむを見みしや 2 なんぢ是等これらの在胎はらごもりの月󠄃つきを數󠄄かぞへうるや また是等これらが產うむ時ときを知しるや 3 これらは身みを鞠かがめて子こを產うみその痛苦いたみを出いだす 4 またその子こは强つよくなりて野のに育そだち 出いでゆきて再ふたたびその親おやにかへらず 5 誰たが野驢馬のろばを放はなちて自由じいうにせしや 誰たが野驢馬のろばの繋繩󠄂つなぎを解ときしや
 957㌻ 
6 われ野のをその家いへとなし 荒野あれのをその住󠄃所󠄃すみかとなせり 7 是これは邑まちの喧閙さわがしさを賤いやしめ 馭者ぎよしやの號呼よばはりを聽きゝいれず 8 山やまを走はせまはりて草くさを食󠄃くらひ 各種もろ〳〵の靑あをき物ものを尋󠄃たづぬ 9 兕のうし肯あへて汝なんぢに事つかへ なんぢの飼草槽かひばをけの傍かたはらにとゞまらんや〘740㌻〙 10 なんぢ兕のうしに綱つな附つけて阡陌うねをあるかせ得えんや 是これあに汝なんぢにしたがひて谷たにに馬鈀まぐはを牽󠄁ひかんや 11 その力ちからおほいなればとて汝なんぢこれに恃たのまんや またなんぢの工事わざをこれに任まかせんや 12 なんぢこれにたよりて己おのが穀物こくもつを運󠄃はこびかへらせ之これを打禾塲うちばにあつめしめんや 13 駝鳥だてうは歡然よろこばしげにその翼󠄅つばさを鼓ふるふ 然されどもその羽はねと毛けとはあに鶴つるにしかんや 14 是これはその卵たまごを土つちの中なかに棄すておき これを砂すなの中なかにて暖󠄃あたたまらしめ 15 足あしにてその潰つぶさるべきと 野のの獸けもののこれを踐ふむべきとを思おもはず 16 これはその子こに情󠄃なさけなくして宛然あたかもおのれの子こならざるが如ごとくし その劬勞くらうの空󠄃むなしくなるも繋念きづかふところ無なし 17 是こは神かみこれに智慧󠄄ちゑを授さづけず頴悟さとりを與あたへざるが故ゆゑなり 18 その身みをおこして走はしるにおいては馬むまをもその騎手のりてをも嘲󠄂あざけるべし 19 なんぢ馬むまに力ちからを與あたへしや その頸くびに勇󠄃いさましき鬣たてがみを粧よそほひしや 20 なんぢ之これを蝗蟲いなごのごとく飛とばしむるや その嘶いななく聲こゑの響ひびきは畏おそるべし 21 谷たにを踋爬あがきて力ちからに誇ほこり 自みづから進󠄃すゝみて兵士つはものに向むかふ 22 懼おそるることを笑わらひて驚おどろくところ無なく 劍つるぎにむかふとも退󠄃しりぞかず 23 矢筒やづつその上うへに鳴なり 鎗やりに矛ほこあひきらめく 24 猛たけりつ狂くるひつ地ちを一呑ひとのみにし 喇叭らつぱの聲おと鳴なりわたるも立たちどまる事ことなし 25 喇叭らつぱの鳴なるごとにハーハーと言いひ遠󠄄方とほくより戰鬪たたかひを嗅かぎつけ 將帥しやうすゐの大おほ聲ごゑおよび吶喊聲ときのこゑを聞きゝしる 26 鷹たかの飛とびかけり その羽翼󠄅つばさを舒のべて南みなみに向むかふは豈あになんぢの智慧󠄄ちゑによるならんや 27 鷲わしの翔󠄃まひのぼり 高たかき處ところに巢すを營いとなむは豈あになんぢの命令いひつけに依よらんや 28 これは岩いはの上うへに住󠄃所󠄃すみかを構󠄃かまへ 岩いはの尖所󠄃とがりまたは峻險けはしき所󠄃ところに居をり 29 其處そこよりして攫つかむべき物ものをうかがふ その目めのおよぶところ遠󠄄とほし 30 その子等こらもまた血ちを吸すふ 凡おほよそ殺ころされし者もののあるところには是これそこに在あり
 958㌻ 

第40章

1 ヱホバまたヨブに對こたへて言いひたまはく 2 非難ひなんする者ものヱホバと爭あらそはんとするや 神かみと論ろんずる者ものこれに答こたふべし 3 ヨブ是こゝにおいてヱホバに答こたへて曰いはく 4 嗚呼あゝわれは賤いやしき者ものなり 何なにとなんぢに答こたへまつらんや 唯たゞ手てをわが口くちに當あてんのみ 5 われ已すでに一度ひとたび言いひたり 復またいはじ 已すでに再度ふたゝびせり 重かさねて述󠄃のべじ

6 是こゝに於おいてヱホバまた大風おほかぜの中うちよりヨブに應こたへて言いひたまはく 7 なんぢ腰󠄃こしひきからげて丈󠄃夫をとこのごとくせよ 我われなんぢに問とはん なんぢ我われにこたへよ 8 なんぢ我わが審判󠄄さばきを廢すてんとするや 我われを非ひとして自身おのれを是ぜとせんとするや 9 なんぢ神かみのごとき腕うでありや 神かみのごとき聲こゑをもて轟とどろきわたらんや 10 さればなんぢ威󠄂光いきほひと尊󠄅貴たふときとをもて自みづから飾󠄃かざり 榮光さかえと華美うるはしきとをもて身みに纒󠄂まとへ 11 なんぢの溢󠄃あふるる震怒いかりを洩もらし 高たかぶる者ものを視みとめて之これをことごとく卑ひくくせよ〘741㌻〙 12 すなはち高たかぶる者ものを見みてこれを盡こと〴〵く鞠かがませ また惡人あくにんを立所󠄃たちどころに踐ふみつけ 13 これを塵ちりの中なかに埋うづめ これが面かほを隱かくれたる處ところに閉とぢこめよ 14 さらば我われもなんぢを讚ほめてなんぢの右みぎの手てなんぢを救すくひ得うると爲せん 15 今いまなんぢ我わがなんぢとともに造󠄃つくりたりし河馬かはむまを視みよ 是これは牛うしのごとく草くさを食󠄃くらふ 16 觀みよその力ちからは腰󠄃こしにあり その勢力いきほひは腹はらの筋すぢにあり 17 その尾をの搖うごく樣さまは香柏かうはくのごとく その腿󠄃もゝの筋すぢは彼此たがひに盤互からみあふ 18 その骨ほねは銅あかがねの管くだごとくその肋骨あばらぼねは鐡くろがねの棒ぼうのごとし 19 これは神かみの工わざの第だい一なる者ものにして之これを造󠄃つくりし者ものこれに劍つるぎを賦さづけたり 20 山やまもこれがために食󠄃物くひものを產出いだし もろもろの野獸やじうそこに遊󠄃あそぶ 21 これは蓮󠄄はちすの樹きの下もとに臥ふし 葦蘆あしの中なかまたは沼ぬまの裏うちに隱かくれをる 22 蓮󠄄はちすの樹きその蔭かげをもてこれを覆󠄄おほひ また河かはの柳やなぎこれを環󠄃めぐりかこむ 23 たとひ河かは荒あらくなるとも驚おどろかず ヨルダンその口くちに注そゝぎかかるも惶あはてず 24 その目めの前󠄃まへにて誰たれか之これを執とらふるを得えん 誰たれか羂わなをその鼻はなに貫󠄄つらぬくを得えん

第41章

1 なんぢ鈎はりをもて鱷わにを釣つりいだすことを得えんや その舌したを糸いとにひきかくることを得えんや 2 なんぢ葦あしの繩󠄂なはをその鼻はなに通󠄃とほし また鈎はりをその齶󠄂あごに衝つきとほし得えんや
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3 是これあに頻しきりになんぢに願ねがふことをせんや 柔やはらかになんぢに言談ものいはんや 4 あに汝なんぢと契󠄅約けいやくを爲なさんや なんぢこれを執とりて永ながく僕しもべと爲なしおくを得えんや 5 なんぢ鳥とりと戲たはむるる如ごとくこれとたはむれ また汝なんぢの婦󠄃人をんな等どものために之これを繋つなぎおくを得えんや 6 また漁夫すなどりの社會なかまこれを商貨あきなひものと爲なして商賣人あきうどの中間なかに分󠄃わかたんや 7 なんぢ漁叉もりをもてその皮かはに滿みたし 魚矛うをほこをもてその頭かしらを衝つきとほし得えんや 8 手てをこれに下くだし見みよ 然さらばその戰鬪たたかひをおぼえて再ふたゝびこれを爲なさざるべし 9 視みよその望󠄇のぞみは虛むなし 之これを見みてすら倒たふるるに非あらずや 10 何人なにびとも之これに激げきする勇󠄃氣ゆうきあるなし 然されば誰たれかわが前󠄃まへに立たちうる者ものあらんや 11 誰たれか先さきに我われに與あたへしところありて我われをして之これに酬むくいしめんとする者ものあらん 普天ふてんの下したにある者ものはことごとく我有󠄃わがものなり 12 我われまた彼者かのものの肢體したいとその著いちじるしき力ちからとその美うるはしき身みの構󠄃造󠄃つくりとを言いはでは措おかじ 13 誰たれかその外甲うはよろひを剝はがん 誰たれかその雙󠄂齶󠄂ふたあごの間あひだに入いらん 14 誰たれかその面かほの戶とを開ひらきえんや その周󠄃圍󠄃まはりの齒はは畏おそるべし 15 その並列ならべる鱗甲うろこは之これが誇ほこるところ その相あひ闔とぢたる樣さまは堅かたく封ふうじたるがごとく 16 此これと彼かれとあひ接つづきて風かぜもその中間あひだにいるべからず 17 一々ひとつひとつあひ連󠄃つらなり堅かたく膠つきて離はなすことを得えず 18 嚔󠄃くさめすれば即すなはち光ひかり發はつす その目めは曙󠄃光あけぼのの眼瞼まぶた(を開ひらく)に似にたり〘742㌻〙 19 その口くちよりは炬󠄂火たいまついで火ひ花ばな發はつし 20 その鼻はなの孔あなよりは煙󠄃けぶりいできたりて宛然あたかも葦あしを焚やく釜󠄃かまのごとし 21 その氣息いきは炭󠄃すみ火びを爇おこし 火燄ほのほその口くちより出いづ 22 力氣ちからその頸くびに宿やどる 懼おそるる者ものその前󠄃まへに彷徨をどりまよふ 23 その肉󠄁にくの片ひらは密みつに相あひ連󠄃つらなり 堅かたく身みに着つきて動うごかす可べからず 24 その心しんの堅硬󠄃かたきこと石いしのごとく その堅硬󠄃かたきこと下磨󠄃したうすのごとし 25 その身みを興おこす時ときは勇󠄃士ゆうしも戰慄をののき 恐怖おそれによりて狼狽あはてまどふ 26 劍つるぎをもて之これを擊うつとも利きかず 鎗やりも矢やも漁叉もりも用もちふるところ無なし 27 是これは鐡くろがねを見みること稿わらのごとくし銅あかがねを見みること朽くち木きのごとくす 28 弓箭󠄃ゆみやもこれを逃󠄄にげしむること能あたはず 投石機いしなげの石いしも稿屑わらくづと見做みなさる 29 棒ぼうも是これには稿屑わらくづと見みゆ 鎗やりの閃ひらめくを是これは笑わらふ
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30 その下した腹はらには瓦礫かはらの碎片くだけを連󠄃つらね 泥どろの上うへに麥打車むぎうちぐるまを引ひく 31 淵ふちをして鼎かなへのごとく沸わきかへらしめ 海うみをして香油にほひあぶらの釜󠄃かまのごとくならしめ 32 己おのが後あとに光ひかる道󠄃みちを遺󠄃のこせば淵ふちは白髮しらがをいただけるかと疑うたがはる 33 地ちの上うへには是これと並ならぶ者ものなし 是これは恐怖おそれなき身みに造󠄃つくられたり 34 是これは一切すべての高大かうだいなる者ものを輕視かろんず 誠󠄃まことに諸もろ〳〵の誇ほこり高たかぶる者ものの王わうたるなり

第42章

1 ヨブ是こゝに於おいてヱホバに答こたへて曰いはく 2 我われ知しる汝なんぢは一切すべての事ことをなすを得えたまふ また如何いかなる意志おぼしめしにても成󠄃なすあたはざる無なし 3 無知むちをもて道󠄃みちを蔽おほふ者ものは誰たれぞや 斯かくわれは自みづから了解さとらざる事ことを言いひ 自みづから知しらざる測はかり難がたき事ことを述󠄃のべたり 4 請󠄃こふ聽きゝたまへ 我われ言いふところあらん 我われなんぢに問とひまつらん 我われに答こたへたまへ 5 われ汝なんぢの事ことを耳みゝにて聞きゝゐたりしが今いまは目めをもて汝なんぢを見みたてまつる 6 是こゝをもて我われみづから恨うらみ 塵灰󠄃ちりはひの中なかにて悔くゆ

7 ヱホバ是等これらの言語ことばをヨブに語かたりたまひて後のちヱホバ、テマン人びとエリパズに言いひたまひけるは我われなんぢと汝なんぢの二人ふたりの友ともを怒いかる 其そはなんぢらが我われに關つきて言いひ述󠄃のべたるところはわが僕しもべヨブの言いひたることのごとく正當ただしからざればなり 8 然されば汝なんぢら牡牛をうし七頭ななつ 牡羊をひつじ七頭ななつを取とりてわが僕しもべヨブに至いたり汝なんぢらの身みのために燔祭はんさいを獻さゝげよ わが僕しもべヨブなんぢらのために祈いのらん われかれを嘉納󠄃うけいるべければ之これによりて汝なんぢらの愚ぐを罰ばつせざらん 汝なんぢらの我われについて言いひ述󠄃のべたるところは我わが僕しもべヨブの言いひたることのごとく正當ただしからざればなり 9 是こゝにおいてテマン人びとエリパズ、シユヒ人びとビルダデ、ナアマ人びとゾパル往󠄃ゆきてヱホバの自己おのれに宣のたまひしごとく爲なしければヱホバすなはちヨブを嘉納󠄃うけいれたまへり〘743㌻〙

10 ヨブその友とものために祈いのれる時とき ヱホバ、ヨブの艱難なやみをときて舊もとに復かへししかしてヱホバつひにヨブの所󠄃有󠄃物もちものを二倍ばいに增ましたまへり 11 是こゝにおいて彼かれの諸すべての兄弟きやうだい諸すべての姉妹しまいおよびその舊もと相あひ識しれる者等ものどもことごとく來きたりて彼かれとともにその家いへにて飮食󠄃のみくひを爲なしかつヱホバの彼かれに降󠄄くだしたまひし一切すべての災難わざはひにつきて彼かれをいたはり慰なぐさめ また各おの〳〵金きん一ケセタと金きんの環󠄃わ一箇ひとつを之これに贈おくれり
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12 ヱホバかくのごとくヨブをめぐみてその終󠄃をはりを初はじめよりも善よくしたまへり 即すなはち彼かれは綿羊ひつじ一萬すべて四千匹󠄃びき 駱駝らくだ六千匹󠄃びき 牛うし一千軛くびき 牝驢馬めろば一千匹󠄃びきを有󠄃もてり 13 また男子なんし七人にん 女子によし三人にんありき 14 かれその第だい一の女むすめをエミマと名なづけ第だい二をケジアと名なづけ 第だい三をケレンハツプクと名なづけたり 15 全󠄃國ぜんこくの中うちにてヨブの女子むすめ等らほど美うつくしき婦󠄃人をんなは見みえざりき その父󠄃ちゝ之これにその兄弟きやうだい等たちとおなじく產業さんげふをあたへたり 16 この後のちヨブは百ひやく四十年ねんいきながらへてその子こその孫まごと四代よだいまでを見みたり 17 かくヨブは年とし老おい日ひ滿みちて死しにたりき〘744㌻〙
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